昨年運行開始したJR小海線の観光列車「HIGH RAIL 1375」。
佐久地域の顔ともいえるHIGH RAIL 1375で、地域や県内の生産者が丹精込めて育てた食材を、素敵なお弁当・スイーツに調理して提供しているお店が「Maru Cafe」です。
人のつながりや環境の循環を大事にしたいという、ご夫婦の思いが形になったMaru Cafe。
今回は、Maru Cafeを経営する柳澤 真理さんに、お店に込めた思いを伺いました。
※2018年8月現在、Maru Cafeはランチ営業については当面の間お休みとなっています。この間、お弁当やギフトボックスの販売と合わせて、「茶房 MaruCafe」と銘打ち、ランチ同様に地元の食材と健康を大切にした「お菓子とお飲み物」をご提供するお店として営業されています。
こんにちは。今日はよろしくお願いします。
こんにちは。よろしくお願いします。
さっそくですが、「Maru Cafe」とはどんなお店か、コンセプトを教えてください。
私はもともと環境問題に関心があり、人や資源の循環に貢献するような仕事をしたいと思っていました。店の名前とロゴマークは、私が店をやりたいと思ったときに決めたものです。二重の円を描き、ぐるぐる回るロゴマークは、人とのつながり、環境資源や地域経済の循環、そして継続を表現しています。扱っている食材のほとんどは、地域で有機・無農薬のような継続的で循環した方法で作られているものを選ばせていただいています。もちろん、そのほうがおいしいから選ぶというのもありますが、いずれも生産者の方が丹精込めて育てており、いいものだと思ったものを使わせていただいています。
私は佐久市出身なのですが、東京に出た時に地元の価値に気づき、地元に帰って何かしたいと考えました。何をしようか考えた時に、「カフェ」という一つの場所を提供することで、人がつながり、癒され、元気になって帰ってもらう。そこで提供するものは地域の食材から作ったものであり、地域の中で循環していく…というコンセプトを考えました。あとは丸という記号は単純で覚えやすくていいなと思い、その時にロゴも決めました。
起業前から具体的なことを考えていたのですね。
コンセプトだけです。私は大学卒業後、料理学校などには行かず、地域を知りたいという思いから長野県の農協中央会に就職しました。そこでは広報の仕事に携わり、Webサイトを通して長野県の農畜産物などを紹介していました。職員が自分で農家の方にインタビューして紹介する、というようなこともしており、今日はインタビューされる側ですが、少し懐かしいなと感じています(笑)。
先ほど本日のお弁当をご紹介いただきましたが、地域の食材がふんだんに使われているとのことでしたね。
はい。佐久地域の食材を使わせていただいています。近隣の農家さんが育てた季節のお野菜、穀物をはじめ、地元の平飼い卵を使い、自家製スパイスオイルで風味をつけています。調味料の味噌、醤油も地元で生産されているものですし、酒かすも地元の酒蔵のものです。パンにコクを出すなど、うちのシンプルな味の決め手になっている菜種油についても、近所にある生産者組合が育てた菜種のものを使っています。日本国内での菜種油の自給率はたったの0.04%しかないのですが、うちの油はほぼそれを使わせてもらっており、贅沢なことだと思います。またパンについては、長野牧場のライムギを使用したパンを、地元のパン屋さんから提供いただいています。チーズも地元のチーズ屋さんのものです。地元の牛小屋で搾乳し、地元の温泉水で洗って熟成させる方法で作られたチーズを使用しています。
本当に地元の食材ばかりですね!
地元で作られた食材に価値をおき、私たちは職人や生産者の皆さまが作ったものを組み合わせて提供しています。そうした、直接作っている方々とつながりを持っていることがうちの強みだと思いますし、互いに地域の宝を大事にしていきたいと考えています。
そうした生産者の方々とはどういった形でお知り合いになられるのですか?
自然とですね。うちのコンセプトを知ってお声かけいただいたり、お店に来ていただいたり。仲間同士の紹介などでも知り合いました。
野菜の仕入れは直接農家さんの畑に訪問し、お任せで売っていただきます。「こんな料理が作りたいからこれをください」と言うのではなく、季節の旬なものや、いいものをくださいという仕入れ方です。無農薬の農家さんは少量多品目で作っていますし、季節によって採れるものが大きく左右されます。お互いの信頼関係のもと、お任せでその時々のいい食材をもらい、もらってから料理の内容を考えます。それが一番おいしい食材をもらっているので、料理としてもベストになります。そのためメニューも1種類で十分です。
どんな食材が来るかわからないというのは、難しくありませんか?
もうすぐ創業4年目になりますが、佐久地域の1年間の旬や、農家さんの作物を把握してきており、そろそろこの食材が来るかな、という時期感がわかってきました。あとはこちらから、作っている作物を聞いてみたり、農家さんから持ち掛けていただいたり。こういったところは勉強にもなりますし面白いですね。
難しいところは、土地柄、お客様の多い時期などに波があります。食材にいいものを使っているため、無駄にしないように努力しています。たくさん取れた時は加工するなどの工夫ですね。
本当に食材を大切にされているのですね。
ところで、古民家のようなお店の内装ですが、どのような経緯でお店を作られたのですか?
もともとこの場所で祖母が薬局をやっており、そのあとお花教室、ピアノ教室などをやっていました。お店を始めようとしたときは物置になっており、とてもお店になるような見栄えではありませんでした。当初、畑の真ん中にお店を構える、などの夢がいろいろあったのですが、資金にも限りがあり(笑)。どうしようかなと考えていた時に、近しい方がここでやればいいんじゃないかと言ってくださり、とりあえず片付けから始めました。片付けるうち、風が入り、光が入ってみると、建物の印象が変わり、意外といい感じになってきて。そこから友人の建築士に居候してもらいながら一緒にデザインしました。当初は天井があってかなり圧迫感があったのですが、天井を抜いて開放感を出し、土壁も新しく自分たちで塗りました。6割くらいは自分たちで店作りしましたね。食べ物と同じで自然素材を使い、材木屋さんから木を調達し、川から石を拾うなどして、土に返るような建物を目指して作っています。いらっしゃった方が、なんだか落ち着く、なんだか暖かいと言ってくださるのは、身近にあるものを使っているからかもしれません。また、テーブルや、店の前にあるオブジェ、器、カーテンなどのインテリアも、人のつながりを通して作っていただいたものです。
店舗作りにもコンセプトが生きているのですね。自分たちで作っていく過程も面白そうです。
実は店を始める前から、facebookで店作りの様子などの情報発信を行っていました。興味を持って見てくださる方も多く、開店時にはすでにフォロワーがいる状態でした。最近の消費者の方は、どうやって作っているのか、どういう人たちがやっているのかという背景まで知りたいという方が多いと感じています。特に、Maru Cafeのコンセプトを気に入ってくださる方々は、物事の背景などにも関心がある方が多いので、それがよかったと思います。
SNSでお店に興味をもたれた方が、実際にお客様としていらっしゃっているのでしょうか?
最近でこそ、テレビに取り上げられたこともあり、地域の方も来てくださることが増えましたが、それまではfacebookやInstagramを見て、口コミで来てくださる方がほとんどでした。メニューも一種類しかない特徴的なお店ですし、万人受けはしなくても、コンセプトに共感した方に継続して来ていただけたらと思っていました。
現在でも、SNSで写真やメッセージを公開するなど、更新はまめにしています。今佐久はこんな季節で、何が採れた、こんな料理を作ったなど。小さくて何気ないことでも、1日1回は更新することを目標にしていますね。
地域の旬の情報とは、興味深い情報発信ですね。
SNSを通して、首都圏でも支持してくださる方々がいらっしゃいますので、うちが大事にしていることを伝えるのは大切なことだと思っています。今、季節や旬については割と知らない人が多いです。そういうところを伝えられるのは、農家さんとつながりがあり、地域のものを主軸に使っているうちの強みだと思います。何でも産地からお取り寄せ、とやっていると見えない、限定することで見えてくるものがあると思います。
地域や季節の旬を大事にしているからこそできる情報発信があるのですね。
ところで、今後はお土産の販売などに力を入れていきたいという話を聞きました。
店舗以外に加工場も持っており、瓶詰加工業と菓子製造業もやっています。少ない人員でやりくりするのは大変ですが、地方で、その日何人来るかわからない飲食店だけで経営を続けていくことは難しいとも感じています。注文を受けて確実に届けられる仕事で、地域の資源を外に売り出していこうと考えています。例えば首都圏にも、地域のものに価値を感じて買いたいと言ってくださる方はいますし、そういった方々にWebで加工品を販売することを考えています。野菜を使ったお菓子や、地元の小麦粉や発酵調味料、酒かすや味噌などを使った健康的なおやつなどですね。今はSNSで遠くの方にも商売できますので、やり方次第でチャンスはあると思います。
また、佐久は首都圏と近いので、ゆくゆくはこちらに遊びに来てもらい、宿泊して食べて遊んで帰ってもらうようにできればよいと思います。その時、生産者の顔も見ていっていただければと。
加工品を通して、首都圏の方々にもビジネスを広げていこうとされているのですね。
加工品販売などを進めていく中でも、お店は存在として価値があるため、続けていきたいと思います。お店ありきというよりは、いろいろな人が訪れて店舗を使っていただくような形にしたいです。
また、生産者や仲間の飲食店と協力して、小麦などの食材生産にも関わっていこうとしています。今、よい食材は減っていく傾向にあるため、将来的にもよい食材を確保できるように、仲間と協力して購入したり、生産を依頼したりということを考えています。ある素材を仕入れるところだけでなく、素材作りにも貢献したいですね。
いろいろな方に店舗を使っていただきたいというお話ですが、様々なイベントの開催等も店舗で行っていると聞きました。
定期的なものとして、ヨガ教室に場所を貸しています。地域や健康、食につながるテーマで、主体的にやりたいという方には、意見が合えば場所をお貸ししています。例えば、お客様として来ていた、将来お店をやりたいという東京出身の方に、店舗を貸したりもしています。場所があっても私たちだけでは使い切れないので、どんどん使ってもらい、人と人とのつながりでいいものが生まれる。自分たちにできないことができる。そういった考えから、価値観を共有している若い方や、何か挑戦したいという方には、どんどん場所を貸していこうと思います。
JR小海線の観光列車、HIGH RAIL 1375にお弁当・スイーツを提供していると聞きました。
料理の師匠である、職人館の北沢さんのご縁でお話をいただき、昨年の運行開始から料理を提供させていただいています。小さな個人事業の店ですので大変な面はありますが、とても価値のあることだと思っています。公共交通である列車で、完全無添加の弁当を出すという話は聞いたことがないですし、意義深いことだと思います。
また、食べてくださる方が見えない仕事ですので、お店で作る料理とは少し味付けなども変えています。うちの要素は残しつつ、お子様なども含めてより広い方に楽しんでいただけるように、意識して工夫を加えています。
HIGH RAIL 1375の弁当も、旬の仕入れた食材で考えて作っているのですか?
冬の間は採れる野菜が少ないですし、常に一定の数量を作る必要などもありますので、通年で手に入る食材や、数に対応できる食材も使う形で工夫しています。春になり野菜が増えてくると、弁当の内容も切り替えるといったように、季節によってお弁当の内容は変わります。パンはメニューに合ったものをパン屋さんにオーダーし、野菜はお任せで来るので畑に相談という形になりますね。
苦労はありますが、HIGH RAIL 1375のお弁当を喜んでくださるお客様がいるのはとてもありがたいです。HIGH RAIL 1375に乗ったことをきっかけに、お店にも足を運んでいただいた方もいらっしゃいました。
コンセプトは残しつつ、HIGH RAIL 1375に合わせていろいろと工夫されているのですね。
最後に、今後創業を目指す方にアドバイスをお願いします。
当初、私は今のような経営形態になるとは思っていませんでした。お店だけを細々とやっていければと思っていたのですが、いろいろとお声かけいただいたりしたうちに、結果的に思っていたよりもずいぶん広い範囲で仕事することになり(笑)。その中で自分たちの役割も変わってきました。最初のイメージにずっと縛られて経営していくのは、苦しいし停滞します。お客様も時代もどんどん変わっていくので、自分の大切なコンセプトだけ守れば、業務の形態はなんでもいいのではないかと思います。人とのご縁や運もお店が成り立つ要素ですし、周りの力を頼ってやっていくのもいいと思います。やってみないとわからないことは多いので、変化を恐れないことですかね。創業やお店をやりたい方にはぜひどんどんやっていただきたいと思います。そういう方が多いほど地域はよくなっていきますしね。
今日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました!
こちらこそ、ありがとうございました。
人と人とのつながり、環境資源や地域経済の循環、継続性というコンセプトを、とても大切に守って経営でも実践されている柳澤さんご夫妻。佐久地域の旬の食材の魅力を知り尽くしたMaru Cafeのお弁当は、HIGH RAIL 1375で佐久地域を訪れた方に、地域の食の魅力を伝えています。
企業情報
MaruCafe http://maru-cafe.com/
住所 〒385-0034 長野県佐久市平賀5341-1
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