2015.12.05 [ 歴史・祭・暮らし ]
時雨れる山里に 【井月さんのこころ143】
井月さんのこころ シリーズ その143
今週の一枚は、桐の実です。後ほど登場します。
前回その142 で、旧暦十月二十日のゑびす講のことを記しましたが、井月さんの「奇行逸話」の中に、或る年の蛭子講(えびすこう)の夜中に山里の旧家離れへ無断で這入り込んで寝てしまった「久蘭堂と井月」というお話しが登場します。久蘭堂というのは、伊那里村(現:伊那市長谷)杉島にあった旧家のことだそうです。
久蘭堂と井月
久蘭堂は伊那里村杉島の旧家で、人里離れた谿山幽邃の景勝を独占した処である。代々俳道の趣味深く、随って芭蕉、蕪村を始めとして、高名な俳人の短冊遺墨を所蔵しているので、井月がよく訪ねたのも無理がない。殊にその離れ座敷は風流を凝らしたもので、井月の垂涎したのは勿論である。或る年の蛭子講の夜中である。内祝いの酒宴酣(たけなわ)なるところ、何処から井月がやってきたのか、「コッソリ」無断で例の離れへ這入り込んで寝てしまったのである。翌朝手を拍つ音が聞えるので、庭に遊んでいた子供が覗いてみると、井月が居るのでびっくりした。そこで、井月が紙片に何か書いて、これを本家へ持って行けと云うので、子供は命ずるままに届けたのである。句意は久々で蕎麦焼餅が食いたいと云う意味のものであったと云う。
いかにも井月さんらしい逸話ですが、井月さんがこの季節に詠んだ句です。
時雨るや馬に宿貸す下隣 井月
以下、この句の評釈について、井上井月研究者である竹入弘元氏の「井月の魅力 その俳句鑑賞」(ほおずき書籍)から引用させていただくと・・・、
馬に餌を与え、馬子の寝食の世話もする馬宿、時雨に急いで駆け込む。
荷物運搬の中馬が往還する街道には馬宿があり、今でも昔の面影を伝える。長谷村の奥、杉島区の旧家久蘭堂に井月はよく出入りしたが、下隣の伊東家がこの句の短冊を所蔵。杉島は高遠と大鹿村の中間で、山林作業の起点でもあったから、馬を泊めたであろう。
(時雨・冬)
現在、この杉島地区では「伊那市杉島地区森林整備推進協定」(平成24年3月26日締結)により、国有林と民有林の連携による森林整備が進められています。協定区域面積は、3,708ha(国有林1,007ha、市有林547ha、私有林891ha、その他1,263ha)に及び、林野庁中部森林管理局南信森林管理署、長野県上伊那地方事務所、伊那市、森林総合研究所森林農地整備センター長野水源林整備事務所、上伊那森林組合の5者で、南アルプス仙丈ケ岳の麓の三峰川右岸の山林について、路網整備や施業の連携を図りながら、団地化による効率的な森林整備や素材生産の効率化・低コスト化に向けた共同施業が計画的に進められています。
来年の申歳は、七年毎に廻りくる諏訪御柱祭の年です。今回の御柱では、諏訪大社上社の御柱御用材が辰野町の横川国有林から伐り出されることとなり、9月16日(水)、24日(木)、28日(月)及び10月5日(月)の4日間に亘って山作り衆が奉仕して8本の伐採が行なわれました。その後、伊那市の平澤林産(有)による架線技術などを駆使して11月上旬までに仮搬出され、辰野町横川のかやぶきの館前に勢ぞろいして仮安置され、11月14日(土)辰野町観光協会や川島区などによるお披露目のセレモニーが行なわれました。来年の上社山出しが行われる直前の3月下旬頃まで見学できるとのことです。
諏訪大社上社の御柱御用材は、社有林の御小屋山(茅野市)から調達されることが慣わしでありますが、昭和34年の伊勢湾台風による被害などで用材が不足している近年は、山を休ませるため4回連続して他所から調達されることになりました。上伊那管内における調達は初めてのことです。
2日(水)かやぶきの館前に仮安置された8本の御柱を見学してきました。横川の谷は冬の装いを深め、朝日を浴びて静かに横たわっていました。
今年も新酒蔵出しの季節を迎えました。
辰野町小野の小野酒造店では11月28日から「夜明け前」にごり酒なまざけの出荷が始まり、新酒が出来たことを知らせる新しい酒林=帘(さかばやし、さかばた)が軒先に掲げられました。緑濃い杉の葉による瑞々しい出来栄えです。
遡って11月30日(月)夕方、伊那市の地酒で乾杯キャンペーンのキックオフイベントが開催されました。伊那市の地酒は、井の頭(漆戸醸造(株))、大國(大國酒造(株))、仙醸((株)仙醸)、信濃錦((資)宮島酒店)の4蔵と伊那ワイン工房((有)ムラタ)で、伊那商工会議所の企画により、市内の居酒屋さんなど35店舗が協力して地酒で乾杯スタンプラリーが展開され、お酒や飲食券が当たるキャンペーンが来年1月末までの2か月間行なわれます。祝辞を申し上げる機会をいただきました。
伊那市内の酒蔵やワイン工房さん、数多くの居酒屋の皆さんなどが協力して、地酒で乾杯キャンペーンのキックオフが行なわれますことを心から御祝い申し上げます。
自らを酒の中の翁「酒中翁」と名乗っていた井上井月が、伊那谷の酒のことをたくさんの俳句に詠んでいます。
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