2015.02.07 [ 歴史・祭・暮らし ]
春待つ心に 【井月さんのこころ100】
井月さんのこころ シリーズ その100
前回の紙衾(かみぶすま)の続きです。 芭蕉翁にも真贋がはっきりしないようですが紙衾の句があります。
たのむぞよ寝酒なき夜の紙衾 芭蕉
芭蕉翁が旅をした当時、紙衾は携行の夜具であったようです。
『奥の細道「草加」』(元禄2(1689)年3月27日)
ことし元禄二とせにや 奥羽長途の行脚 只かりそめに思ひたちて 呉天に白髪の恨を重ぬといへ共 耳にふれていまだめに見ぬさかひ 若生て帰らばと 定なき頼の末をかけ 其日漸(ようやく)草加と云宿にたどり着にけり。痩骨の肩にかゝれる物 先くるしむ。只身すがらにと出立侍(はべる)を 帋子一衣は夜の防ぎ ゆかた・雨具・墨・筆のたぐひ あるはさりがたき餞(はなむけ)などしたるは さすがに打捨がたくて 路次の煩(わずらい)となれるこそわりなけれ。
この中に「帋子一衣は夜の防ぎ(かみこひとえはよのふせぎ)」とあり、渋紙で作った防寒具は、当時の旅の必携品であり、旅籠には夜具の用意がなかったため旅人自身が携行しなければならないものであったようです。
ところで、江戸時代、旅に出る人々はどんな荷物をどの程度持って出発したのでしょうか。芭蕉翁の『奥の細道』にして、この程度ですが、少し時代は下って井月さんが生まれる10年ほど前に書かれた『旅行用心集』(八隅蘆庵 やすみろあん 文化7(1810)年刊)には、少し詳しく次のようにあります。
道中所持すべき品の事
- 一 矢立 扇子 糸針 懐中鏡 日記手帳一冊 櫛并に鬢付油
- 但し かみそりは泊屋にてかり用ゆべし
- 又髪ゆひもあれども只途中又は御関所城下等通る節 びんのそそけざる為なり
- 一 挑灯 ろうそく 火打道具 懐中付木
- 是はたばこを呑ぬ人も懐中すべし
- はたご屋のあんどうは きへやすきもの故 不慮に備ふべし
- 一 麻綱
- 是は泊々にて物品をまとひおくに至極よきもの也
- 一 印板
- 是は家内へ其印鑑を残し置 旅先より遣ス書状に引合せ
- 又金銀の為替等にも其印を用ゆる為の念なり
- 一(鉤の絵)
- 此かぎを所持すれば道中にて重宝なるもの也
というわけで、寝酒が飲めなかった夜、紙衾が防寒の頼りであったようです。
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