2014.06.21 [ 食・農・旅 ]
縒りが戻るように【井月さんのこころ66】
とよみけるを聞きて、限りなくかなしと思ひて、河内へも行かずなりにけり。 (後略)
昔、幼なじみの男女が、筒井筒(丸井戸の竹垣)の周りで、たけくらべをしたりして遊んでいました。 二人は大人になって互いに顔を合わせるのが恥ずかしくなってしまいましたが、 二人とも相手を忘れられず、親の持ってくる縁談も断って独身のままでいました。 その女のもとに、男から歌が届きます。
「井戸の縁の高さにも足りなかった私も背丈が伸びて縁を越したようです、貴女を見ない間に」
女が返します。
「貴方と比べていたおかっぱの髪ももう肩よりも伸びましたよ、貴方以外の誰が髪上げ(成人の証し)できるものですか」
こうして夫婦となった二人でしたが、やがて妻の親が死に、暮しが貧しくなり、夫は河内の女のもとに足しげく通うようになりました。 ところが、妻は怒りの素振りも見せず夫を送り出します。不審に思った夫が前栽に隠れて見ていると、綺麗に化粧をし、物思いにふけったように歌を詠む妻の姿がありました。
「風が吹くと沖の白波が立つ竜田山を、夜中に貴方は一人で越えているのでしょうか。」
それを聞いた夫は、この上なく愛しいと思い、河内へは行かなくなったのでありました。
「反り」が合わない刀は、鞘に収めることはできませんが、筒井筒・幼馴染の男女が元の鞘に収まったというお話し。
井月さんにも、「青梅」につながるような「筒井筒」の酸っぱそうな思い出があったのでしょうか。
というわけで、今週の結びは、鯵の「反り」でなく、男女の「縒り」が戻ったお話でした。
「春日愚良子句集」から
麦の穂にくすぐつたいぞ過去がある
愚良子
右に縒れ左に縒ざる蓮華草
愚良子
この雨に縒りも戻るか蓮華草
青巒
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