こんにちは(^▽^)/総務管理・環境課のWです!
木曽に赴任して早3年目。ついに島崎藤村著「夜明け前」を読みました!
文庫計4冊に及ぶ大長編ですが、1本の大河ドラマを見るようで、江戸末期から明治初期にかけての激動の時代や当時の木曽路の様子に深く魅せられました。
そこで、その世界に思いを馳せ、藤村や藤村小説にゆかりのある地へ足を運んでみようと思い立ちました。
今回紹介するのはそのうちの1つ「高瀬家資料館」です。
①高瀬家とは
高瀬家とは、藤村の姉「園」の嫁ぎ先で、藤村自身も幾度も足を運んだことのある馴染みの場所です。また、藤村の著書「家」の舞台でもあり、「家」では橋本、「夜明け前」には植松の姓で登場します。
肥後国(現熊本県)を本拠地とする藤原氏の出で、旧姓菊池。没落後、高瀬と姓を改め木曽福島(現木曽町福島)に来て、代々木曽代官の山村氏の御側役、砲術指南役、勘定役として仕えました。
また、第7代が主君と共に江戸に赴いた際に、名薬・奇応丸(きおうがん)の製造法を学び、主君の許しを得て製造販売をするようになりました。
そして、9代の時に製造販売を広め、徳川家へ献上しました。9代目は、その功績から一族の間で1番の重要人物とされているそうです。
高瀬家で薬の製造販売を継いだ者は「高瀬兼喜」を名乗ることとされ、一族の歴史や使命に誇りを持っていた一方、重圧も感じていたそうです。
1番左が第9代、右が第13代。13代は武家として最後の高瀬家当主。
仕えた山村氏は徳川幕府側だったため、維新の際は苦しい立場に立たされていました。
②島崎藤村・文学との関係
展示品と藤村作品を見比べると、高瀬家と島崎藤村との親密さや、藤村作品への影響の大きさが分かります。
藤村や藤村作品に関わっているものをいくつかご紹介します。
◎作品の執筆
高瀬家は作品の舞台となっただけでなく、作品の執筆場所でもありました(詩:夏草)。
小説「家」の書き出しには「台所では昼飯の仕度に忙しかった」という内容が書かれていますが、その理由は、当時大所帯だった高瀬一家と、藤村とその親戚2名が集まっていたからだそうです。
また、藤村自身、高瀬家を生計の面でも頼みとしていて、妻の死後、一時的に子どもを預けたり、著作「春」や「破戒」の出版費用を融通してもらっていました(当時は自費出版)。
無事に出版できた際には、感謝をこめて自筆の贈答の書(千曲川の歌)も送っています。
高瀬家の存在があったからこそ今の藤村小説が生まれたといっても過言ではありませんね。
送り先の第16代は「家」に登場する幸作とのこと。
◎芸術と縁が深い…?
藤村の血筋は芸術と縁が深いのかもしれません。
藤村の3男や姪の立派な絵(金銭的に余裕がなくとも絵は習わせていたとのこと)も残っていました。3男・蓊助(おうすけ)さんは、漫画「かっぱ天国」の作者・清水昆さんとも懇意だったそうです。
清水昆さんが当時の高瀬家へ寄った時の様子を描いています(昆さん自身も手前で筆をとっています)
◎手紙
藤村からの手紙や、(高瀬家にいる藤村に届けるため)高瀬家当主あて届けられた手紙もあります。
◎高瀬家からの景色
撮影場所は現資料館の屋上です。
この資料館は、明治期には高瀬家の武家屋敷の長屋門があったところであり、長屋門は昭和2年の歴史的な大火によって焼失しました。火は写真の手前から2番目にあるアーチ状の橋(大手橋)のあたりまで広がったそうです。
当時の写真も資料館に展示されています。
大手橋は、「夜明け前」の主人公・青山半造が、山村氏の屋敷へ向かう際に通ったものとされています。
◎高瀬家に伝わる鎧
この鎧は、江戸時代末期に京へ向かう水戸浪士等を迎え撃つための出陣に着用したものです。
しかし、中山道を通るだろうと待ち構えていたものの、近くにある関所や険しい木曽の山中を通ることは困難と判断した浪士等がルートを伊那方面へ変更したため迎え撃つことができず、鎧は綺麗なまま残ったそうです。
水戸藩の大移動は「夜明け前」第1部下巻で取り上げられ、物語に大きく関わってきます。
隣には大阪冬の陣の攻め口を描いた図もあります。
◎小野派一刀流
高瀬家には小野派一刀流が伝えられ、武術も備えていました。
名前の最後にある「遠藤五千太」は山村家の臣で、木曽福島で道場を開きました。「夜明け前」では、維新前を象徴する人物の1人として名前が挙がっています。
島崎藤村は物語(フィクション)に事実(ノンフィクション)を混ぜた作品を何作も出しています。
作品を読んで当時の様子を想像するのもよし、実際に足を運んでいただくのもよしです。
≪最後に≫
その他にも高瀬家には当時を知る貴重な資料がたくさん展示されています。執筆にあたって資料館を管理する子孫の方のお話を参考にさせていただきました。
エピソードや史料から、高瀬家や地域の歴史の重みや想いを感じとることができ、とても貴重な時間を過ごすことができました。
高瀬家入口。一族の神道信仰により、入口が鳥居の形をしています。
(高瀬家資料館)
・木曽福島駅下車徒歩15分
・入館時間:9:00~17:00
・入館料:200円
※資料館の隣には福島資料館と福島関所もありますので、同日にまわることも可能です。
福島資料館と福島関所(ブログ):
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