2024.05.28 [ 計量検定所 ]
計量女子の計量検定所日記~プランク定数で最強になった「キログラム」は好きですか?~(前編)
こんにちは!計量女子です。
5月20日の世界計量記念日に合わせて国立研究開発法人 産業技術総合研究所(通称:産総研)がニコニコ生放送で配信した動画の内容を計量女子ができるだけ分かりやすく紹介するシリーズの2回目です。
※実際に放映された動画から作成したキャプチャー画像を使用していますが、著作権の所有者である国立研究開発法人産業技術総合研究所(ブランディング・広報部)に当該著作物の使用許可を得ております。
元々の1キログラムは、水1リットルの質量とされていました。(18世紀末のフランス、すなわちフランス革命の頃のお話です)
その後、1889年に人の手で作成した人工物(国際キログラム原器)を基にキログラムが定義されましたが、今から約30年前、国際キログラム原器に1億分の5グラムという質量変化が生じていることが判明しました。
これは指紋1個分の質量に相当するそうですが、たとえ指紋1個分でもキログラムの定義が変わってしまうことは大問題です。
そこで、世界各国の研究者達が協力して人工物に依存しない新しいキログラムの定義を決めることになりました。
新定義決定にあたり重要な役割を担ったのが、計量標準総合センター 工学計測標準研究部門 倉本 直樹(くらもと なおき)主席研究員です。
人工物に依存しない質量の定義を決めるため、研究者達はどのようなことを始めたのでしょうか?
数多ある物理定数のひとつに「プランク定数」というものがありますが(計量女子が解説できる代物ではないので興味のある方は調べてみてください)、この定数を用いると原子1個あたりの質量を表すことができます。
つまり、1キログラムの物質に原子が何個含まれるのかをプランク定数で表すことができれば、プランク定数に基づく(=環境や時の変化に左右されない)キログラムが定義できるということになります。
しかし、新定義研究が始まった頃はプランク定数も今ほど詳細には解明されていなかったので、まずはプランク定数そのものを正確に調べる必要がありました。
そこで、世界の研究者達はまずシリコン(元素記号Si。主に半導体の材料として使われます)単結晶で構成された球体を作成し、球の質量や体積から正確なプランク定数を導き出そうとしました。
その工程には、球体に含まれるシリコン原子を数える😵という途方もない作業がありました。
球体内のシリコン原子の並び方には規則性があるため、単位格子(たんいこうし。原子の結びつきの最小繰り返し単位)の中に原子がいくつ含まれるかが分かれば、球体体積と単位格子体積から球体に含まれるシリコン原子の数が分かります。
シリコン原子の数が分かれば、球体の質量を球体中の原子数で割り算して、プランク定数を導き出すことができます。
これは、シリコン球の体積を測定するために倉本研究員が開発した「レーザー干渉計(かんしょうけい)」という装置で、物体の体積を100億分の6メートル、原子と原子の間隔レベルの精度で測定できるそうです。
プランク定数の研究にあたり同様の装置は各国研究機関で開発されましたが、原子レベルまで測定できたのは産総研とドイツの機関のみだったそうです🤩
このように各国研究機関がプランク定数を研究した結果、プランク定数に基づいた1キログラムの精度は1億分の1となり、国際キログラム原器の質量変化(1億分の5キログラム)をしのぐ精度を出すことに成功したのです。
令和元年(2019年)に、キログラムの定義は国際キログラム原器の質量からプランク定数を用いた定義に変更されました。
定義が変わっても1キログラムが重くなったり軽くなったりしたわけではないので、商品の量り売りや体重測定など私達の生活に根差す計量には何の変化もありませんが、より精密な計量を必要とする新薬開発の現場や環境計量分野などにとっては大きな進歩であると言えます。
(~プランク定数で最強になった「キログラム」は好きですか?~後編 に続きます。)
このブログへの取材依頼や情報提供、ご意見・ご要望はこちら
松本地域振興局 総務管理課
TEL:0263-40-1955
FAX:0263-47-7821