来て!観て!松本『彩』発見 歴史と伝統の城下町松本。のどかな田園風景安曇野。そびえたつ雄大なアルプス。自然と文化に彩られたまつもと地域の情報を、松本地域の県職員の発見を織り交ぜつつお届けします。 面白いこと新発見、知ってる人にも再発見、何だこれはの珍発見。当たり前だと思っていたことから、ローカルなことまで職員の発信する情報をお楽しみください。

来て!観て!松本『彩』発見

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働くときに大事なことは全部テレビドラマに教わった


恐ろしいリスキル社会。こういうときは誰かロールモデルが欲しくなります。
今年の夏に、『ユニコーンに乗って』というテレビドラマが放送されました。教育アプリを開発するスタートアップ企業が舞台です。大学を出たばかりのような若者たち(永野芽郁23歳、杉野遥亮27歳)が作った新しい会社に、銀行を中途退社したおじさん(西島秀俊51歳)が採用されます。西島はIT関係の知識はなかったのですが、会社の広報や資金調達の方法にアイデアを提供し、存在感を示します。これまでの経験や知恵が役にたちました。当初ちんぷんかんぷんだったIT関連の用語にもなじんでいき、持ち前の楽天的な性格で激変した環境を乗り切ります。
西島は仕事以外にも自分の趣味をもっています。山で野鳥観察することです。都会育ちでデジタルネイティブの若者とは対極の感性を持っていることが示されています。西島は、たんに年をとっただけのおじさんではないということです。異質な存在は、同質性の輪の中にいる者が気づかない視点を集団に持ち込みます。それは得てして行き詰った問題を解決に導きます。

もう一つテレビドラマを紹介します。現在放送中の『アトムの童(こ)』です。
町の小さなおもちゃメーカー「アトム玩具」が、若者向けのゲーム会社に生まれ変わるという話です。アトム玩具は昭和レトロなフィギュアを作っていますが、時世にあわず倒産寸前。父親の跡を継いで社長になった娘(岸井ゆきの30歳)は、おもちゃ製造はやめて、何のノウハウもないのに新しいゲームを制作しようと言い出します。運よくゲームの天才クリエイター(山崎賢人28歳、松下洸平35歳)を社員に得て新作を売り出します。
アトム玩具には古参の社員らが3人(風間杜夫73歳、でんでん72歳、塚地武雅51歳)残っていますが、金型でフィギュアを作ることはできても、デジタル知識を駆使したゲームは作れません。分野が異なるので、持ち前の技能をスキルアップすることでは対処できません。新体制の会社で、おじさんたちの仕事といえば周辺的な雑用ばかりで、他にすることもないのですがクビになるわけでもありません。ゲームのことを勉強しましたと言うのですが、本を1冊読んだ程度です。個人で学習するにしても何をすればよいかわからないから仕方ありません。

業種を変えるには、それに見合った専門人材が必要になります。その人材をどのように調達するか。外部から雇用するか、内部社員を教育するかの二通りがあります。優秀なデジタル人材は獲得が難しいし、優秀な人は就職しても引く手あまたなので転職しやすい。外部人材の調達はコストがかかるので、社風をよく知る内部人材を教育したほうが割安になります。アトム玩具の場合、たまたま優秀な人材を外部から格安で確保できたので、超ラッキーでした。一方、内部人材の教育については、会社に実施責任がありますが、極小企業のため、そんな余裕はありません。

その後、なんの将来展望もないまま、もう一人事務方のおじさん(51歳)を採用してしまい、社長1人(30代)、社員6人(うち技術2人(2,30代)、その他4人(50代2人、70代2人))という構成のゲーム制作会社になりました(年齢はドラマ内の設定ではなく、俳優の年齢です)。

ここまで「おじさん」という言葉を無造作に使ってきましたが、「働くおじさん」ということでは、50代以上の中高年をイメージしています。しかし50代、60代、70代は生物学的な能力にかなり差がありますから、それを一概に中高年と一括りにすることもできません。世のリスキル論を見ていると、高齢者のリスキルについては曖昧です。50代の人は頑張るとして、60代、70代の人はどうすればいいのかわかりません。

改正高年齢者雇用安定法(21年4月施行)では70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務になりましたから、ドラマのように70歳のおじさんの割合が増えるのは、すぐそこにある未来です。すでに70代で現役で働いている人は大勢います。「令和4年版高齢社会白書」によれば、令和3年は、70-74歳の人の32.6パーセント、75歳以上の人の10.5パーセントが就業しています。現在収入のある仕事をしている人に、何歳まで収入のある仕事をしたいかという質問をしたら、75歳までと答えた人の割合が最も多く、36.7パーセントいました。

問題は、その人たちが畑ちがいのスキルしか持っていない場合です。アトム玩具では、社員が自分の持っている技術と会社が求める技術とにギャップがありました(スキルギャップ)。そのギャップを埋めるためにリスキルが必要になります。しかし50代ならまだ20年くらい働かなくてはならないから頑張って新知識を身につけようと思うかもしれませんが、年齢が進むにつれ、現状維持で乗り切ろうとしますからモチベーションは急降下していきますし、そもそも新しいことを覚えるのが難しくなっていきます。

『アトムの童』の70歳のおじさんたちは、あきらかに余剰人員になっています。かといって、彼らをリスキルで再活性化することも難しそうです。会社への貢献はないに等しい彼らですが、意外にも重要な場面で何度も役にたちます。天才クリエイターの若者たちだけでは行き詰ることがあります。そのとき、実物の玩具や模型からヒントを得て窮地を切り抜けるという展開が繰り返されます。旧来の職人たちの技術や経験、知恵がそこで役にたっています。
別のドラマですが、新メニューの開発に行き詰って悩んでいるときに、田舎のお母さんが送ってきてくれた漬物を食べて「これだ!」とひらめいたりします。テレビドラマでは、IT社会が急速に進むと、その反動として旧来の価値にも捨てがたいものがあるとして揺れ戻しが起こります。そういう逆張りは安直だし、いつも通用するとは限りません。現実にはなかなか起こらないことですが、テレビは「癒し」でもありますので、『半沢直樹』はじめ、おじさんたちがよく見ているTBS日曜劇場では、おじさんの存在意義は軽んじることはできないのです。
結局のところ、高度なデジタル環境にあっては、高齢者は周辺にあって、その経験によって得た知恵を若者たちに授ける役割になると思います。昔話の「姥捨て山」では、肉体労働者としては役に立たなくなった老人は山に捨てられます。しかし孝行息子がためらっているうちに、老人には難問を解決する知恵があることがわかります。こういうのは「棄老・老賢者系の話型」といっていいと思いますが、 『アトムの童』でもまったく同じパターンが繰り返されています。『ユニコーンに乗って』のおじさんは51歳と若く、若いぶん、スマートに立ち回ることができていますが、やはりこれも老賢者型です。

現代の物語においても老賢者はよく出てきます。老人の役割は、自分の経験や獲得した知恵を次の世代に託すことにあります。これは会社でも同じです。年配の社員にはそれぞれ豊富な経験がありますので、それを活用して新しい技術と融合させていく。そうした知恵や経験は新しい技術とはかけ離れたものに見えますが、むしろかけ離れているからこそ大きな価値があるといえます。みんながみんな、リスキルして若者と同じことをやれるようにする必要は……ないのです。(そのぶん逆に、知恵を期待されます。)

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