2013.11.09 [ 自然・山・花 ]
柿の葉を土産に【井月さんのこころ34】
囲炉裏の火にあたって温もりながら、蕎麦を振舞ってもらったり、お仕着せの晩酌を飲ませてもらって・・・・
朝寒、夜寒。やがて冬枯れの季節。そんな暖かい宿が取れない日もあったに違いありません。
そして、更に・・・・
朝寒や人の情は我が命 井月
以下、この句の評釈について、井上井月研究者である竹入弘元氏の「井月の魅力 その俳句鑑賞」(ほおずき書籍)から引用させていただくと・・・、
人の情けは我が命とは、衣食住を人に頼っている井月らしい。わが生命は人のお陰で活かされている自覚は、だれしも大切。
井月は俳諧、書において他に優れ、他に教え、感化を及ぼし、一飯の対価は払ってある。世間と井月との落差が晩年の井月を悲惨にした。芸術の価値を正当に評価しない時代の悲劇だ。
(朝寒・秋)
生活に窮しながらも寄食して伊那谷に留まり続け、「ほかいびと」として命を繋ぐこと三十年。
小林一茶のようなむき出しの「欲望」や「我執」を一切感じさせることなく、庶民の喜怒哀楽を淡々と句に詠み、そして神業のごとき書を残して、風体は汚れていても見事なまでに世俗の汚れとは無縁な独自の境地に至った井月さんの生き方は賞賛に値します。
もう一句。
鍬を取る人の薄着や柿紅葉 井月
以下、この句の評釈についても、竹入弘元氏の「井月の魅力 その俳句鑑賞」(ほおずき書籍)から引用させていただくと・・・、
柿の葉が色づいた晩秋、鍬を取って耕す人は薄着だなと感心している。体に汗して働く人は皆薄着だ。柿の葉は大霜で一斉に落葉。その葉の光って美しいこと。全集に載る井月の奇行逸話、「柿の葉のお土産」。ある時、井月が落ちている柿の葉を拾い、着物でこすって埃を落としている。やがて家に入って妻女の前へそれを出して、「ハイお土産」。
(紅葉・秋)
写真: 柿紅葉
お仕着せの夜寒に燗やもう一合 青巒
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