2017.07.12 [ 地域振興局 ]
地域の元気創造中!~木材資源の活用という視点から考える持続可能な社会とは~
7月5日(水)に伊那市50年の森林人材育成協議会様の「山のための建築」講演会に参加させていただきました。
この講演会のキーワードは、「木材資源の活用」。このキーワードから持続可能な社会について考えてみます。
日本の国土面積に占める森林の割合は約67%であり、森林率は世界でもトップクラスであるにも関わらず、木材製品などに国産の木材資源を使用する割合(木材自給率)は平成27年度実績で33.3%と決して高い数値とは言えず、木材資源は輸入に頼らざる得ない現状です。
木材自給率が低い理由、それは我が国の気候の関係により木材資源の含水率が高く、乾燥作業の長期化など国産木材は素材として使用しづらいことや、従来の畳や和室の住宅からフローリングの住宅へ変化するライフスタイルに対応する国産材を用いた製品開発に遅れをとったことなど、豊富な木材資源を活用することが出来なかったため、我が国は1918年頃(大正7年)から現在まで木材の輸入超過国となっています。
近年では、CLT構法(クロス・ラミネイティド・ティンバー)という繊維方向が直交するように交互に張り合わせることで、従来の構法より断熱性や耐震性が高く、短い工期で住宅等の建築ができるため、今まで木材資源が用いられていなかった大型施設などに用いることが期待される技術開発や、今まで廃棄されていた木材をチップ化してバイオマス発電(木材などの有機物(バイオマス)をエネルギー源として利用する発電)に使用することなど、新たな需要の開拓が行われています。
木材自給率が低いままでは、木材資源の輸入による資金の流出や、国内に資金が還元されないことで国内林業は衰退し、荒廃した森林は山崩れなど自然環境への影響があるなど、国内林業の成長は日本の経済や環境にとっても重要な意味を持ちます。
このように、日本には国内の木材資源の活用という点では課題が残されていますが、講演会では世界の木材資源の活用例としてヨーロッパのある小さな田舎町が紹介され、とても印象に残りました。
この町は人口1000人に満たない小規模な自治体で、行政機能の効率化を図るため公的機関等を集約化した新たな庁舎を建設しましたが、この庁舎は木造となっており、しかも防腐剤などの加工は行わずカットした地元木材をそのまま床などに使用しています。
この庁舎を木材以外の素材で建設する場合、より安価な金額で建設することは可能だったそうですが、あえて木造にした理由は、建設した庁舎を取り壊した後、床や壁に使用していた木材を薪などの燃料とすることで、地元の資源を最大限利用することが可能となります。
また、高度な技術が必要な機能は除き、地元職人に建設可能な設計とすることで、地元職人の保護も可能となります。
つまり、この町では地元の木材や職人を活用することで、その地域内で資源や資金の流通・還元が行われ、小さいながらも持続可能な社会が構成されています。
近年、人口減少社会への対応としてコンパクトシティ※など、郊外へ無秩序に拡大した都市を考え直し、効率的な街づくりを目指すことを国も推奨していますが、都市機能の集約化がもたらすメリットは大きい一方で、そのメリットを受けられない住民の存在も否定することはできません。
その地域の全ての住民の方に等しく便益を享受することは現実的に難しい以上、都市政策の転換はしばしばデメリット(負の面)を誰が受け入れるのか、という点が課題として挙げられます。
一方、現状のように郊外へ拡大した都市を維持するには、社会インフラの整備・更新や、公共サービスの提供に膨大なコストが必要である以上、そのようなコストを削減するための対策も必要です。
全ての課題が解決する手段というものは存在しない以上、メリット、デメリットを踏まえたコンセプト(概念)を持った街づくりが今後重要となります。
都市が持続していくために何を許容し、優先すべきなのか、ヨーロッパの小さな田舎町は私たちにそう問い掛けているように感じました。
今回の講演会では、「木材資源の活用」に関する内容となっていましたが、8月には信州大学等の学生を中心にしたサマースクールが開催されます。
一般の方も参加可能とのことですので、木に着目した街づくり等について一緒に考えてみませんか?
~イベント紹介~
イベント名 サマースクール「Wood in culture~木のある文化へ~」
開催日時 平成29年8月25日(金)~27日(日)
開催場所 伊那市生涯学習センター「いなっせ」(市内の各現地視察もあり)
講義科目 「子供のための建築、まちづくり教育」など。
このブログへの取材依頼や情報提供、ご意見・ご要望はこちら
上伊那地域振興局 総務管理課
TEL:0265-76-6800
FAX:0265-76-6804