2015.11.07 [ 歴史・祭・暮らし ]
砧の音のおちこちに 【井月さんのこころ139】
井月さんのこころ シリーズ その139
『隠君子』については、前回その138に登場しました。
今回の御題、『砧(きぬた)』についても、前回その138で、元治元年(1864年)九月、井月さんが滞在先の善光寺宝勝院住職の梅塘さんに書いてもらった、俳諧三部作の二作目『家づと集』の序文に登場しました。
2015.10.31 大自然の営みの中に 【井月さんのこころ138】
捨(すてる)べきものは弓矢なりけり、といふこゝろに感じてや越の井月、入道の姿となり前年、我(わが)草庵を敲(たたき)てより此(この)かた・・・・・(中略)・・・・・・・秋も良(やや)碪(きぬた)の音の遠近(おちこち)に澄(すみ)わたるころ、緒家の玉葉を拾ひ集め、梓にものして、古郷へ錦を餝(かざ)るの家づとにすゝむる事とはなりぬ。
元治甲子 菊月 梅塘
井月さんが詠んだ『砧』の句を二つ紹介します。
酒を売る家に灯はなし遠砧 井月
以下、この句の評釈について、井上井月研究者である竹入弘元氏の「井月の魅力 その俳句鑑賞」(ほおずき書籍)から引用させていただくと・・・、
酒好きの井月、たまには自分の所持金で飲むこともある。夜遅く酒屋目指してきたが、灯が消えている。がっかりだ。静かな夜、遠くから聞こえてくる砧の音。砧は、昔麻・こうぞ・葛(くず)など植物の繊維で織った布を、台に載せ、槌で打って柔らかくし、つやを出す。女の夜なべ仕事の一つ。
「酒を売る家ははや寝て遠砧 井月」も同想の句。
(砧・秋)
山姥も打つか月夜の遠きぬた 井月
以下、この句の評釈についても、同様に竹入弘元先生の「井月の魅力 その俳句鑑賞」(ほおずき書籍)から引用させていただくと・・・、
「足柄」という詞書があり、伝説がらみの空想をかきたてる。怪童金太郎は相撲の足柄山で山姥(山に住む女の怪物)を母とし、熊に乗って遊んで育った。月夜の晩遠くから砧の音。あれは山姥が打っているのか。
砧を詩歌に詠むことは、「長安一片の月、万戸衣を打つ声 李白」など古代から。秋の夜寒の侘しさ、打ち続ける悲しい響き。井月も寝ないで聞き入る。
(砧・秋)
唐代の三詩人が詠んだ『砧』。 李白(701~762)、杜甫(712~770)、白居易(772~846)
砧を打ちながら遠く戦さに出掛けた夫の帰りを待ちわびる妻を詠んだ詩仙。
李白 『子夜呉歌』
- 長安一片月 長安一片の月
- 萬戸擣衣聲 万戸衣を擣(う)つの声
- 秋風吹不盡 秋風吹きて尽きず
- 總是玉関情 総て是れ 玉関の情
- 何日平胡虜 何れの日にか胡虜を平らげ
- 良人罷遠征 良人遠征を罷(や)めん
故郷を目指し長江を下る詩聖の望郷の念。
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