2017.12.26 [ 佐久の企業 ]
大豆から作るお豆腐屋さん。白ほたる豆腐店
雄大な浅間連峰を一望することができる南軽井沢の「お豆腐屋さん」に女性の声が響き渡ります。
「いらっしゃいませー!こんにちはー!」。その声の主は森友実(ともみ)さん。豆腐業界ではめずらしい女性の作り手です。「女性が豆腐を作っているのが珍しいのか、幸い、雑誌や新聞、テレビで取り上げていただき、少しずつリピーター様も増えてきました!」と笑顔で語る友実さん。友実さんが話をする隣で優しく微笑むのは、夫の雄大(たけし)さん。
年間100件もの豆腐屋が廃業している中で、不思議と豆腐に導かれたおしどり夫婦が経営する「白ほたる豆腐店」をもっと深く知るべく、ご夫婦にお話をお聞きしました。
白ほたる豆腐店を経営する友実さん(写真左)と雄大さん(写真右)
– 友実さんの前職はウェブ制作、雄大さんの前職はIT関係とお聞きしましたが、なぜ豆腐屋になろうと思ったのですか?
(友実さん)直感です!お豆腐屋を始める前、人にも恵まれて楽しく満足の日々を送っていました。ですが、次第に光の入らない室内で体調を崩してまで働く自分への違和感が増していきました。自然を眺めながら体を動かして、朝早く起きて夜早く寝る生活がしたい!と、漠然と思っていたそんな時です。体に優しいお豆腐を作る群馬県の師匠に出逢いました。
豆腐屋になるのが夢だったわけではありませんが、これだ!と不思議な直感がありました。まさか主人もなるとは思いませんでしたが。(笑)
(雄大さん)子どもの頃から農業をやりたかったんです。豆腐屋をやりたいと妻から聞いたときに、「(豆腐って大豆だよな…)いいじゃん!」って思いました。(笑)
– 都内から軽井沢に移住されたとのことですが、なぜこの地なのでしょうか?
(友実さん・雄大さん)田舎に住みたいという思いが強くあり、この地以外にも、東京から通える範囲で色々と探していました。軽井沢というブランドに惹かれたわけではありません。(笑)軽井沢の中でも、最初は中軽井沢の街中で開業しようかと考えていましたが、豆腐屋は朝早いので、ボイラーの音など周りを気にしてやりたくありませんでした。できることならば、「思いっきり自由にやりたい」と思っていました。
決め手となったのは、雄大な浅間連峰の風景です。会社員時代、今のお店の前の道をよくドライブしていました。車内から見える猛々しくも優雅な浅間の山々が望めるこの道が本当に好きでした。歩いている人もいない、誰もいないこの場所で事業を始めることについて、周囲からは、「思い直した方が良い」と心配されました。(笑)ですが、当事者である私達は不思議と何の不安もありませんでした。ただただ、この場所が「気持ちが良かった」のです。
運命とでもいうのでしょうか。
偶然にもこの場所が売りに出されており、すぐにここだ!と決めました。水道が通っておらず、井戸水だったこともあってか買い手が見つかっていなかったようですが、むしろ「いいじゃない!」と思いましたね。
発地川や田畑に囲まれた中にポツンと佇む店舗
– 白ほたる豆腐店。素敵な名前ですね。
(友実さん)ありがとうございます!南軽井沢のこの地域一帯が「ほたるの里」と呼ばれています。この「ほたる」にお豆腐のイメージである「白」を掛け合わせました。先輩からの「地域の名前と商品のイメージを合わせると良いよ」というアドバイスを参考に決めました。
– 事業を始める上で「これだけは譲れない」といった思いや「守り抜こう」と決めていたことはありますか。
(友実さん)「考えていませんでした!」というと語弊がありますが、それだけ「必死」でした。師匠の教えを2年間忠実に守り抜いて、とにかく「お豆腐さんと向き合うこと」だけを考えていました。そのため、広告もだしておらず、オープンの日に看板さえも出していませんでした。(笑)ですが、不動産会社の方がホームページで紹介してくださったらしく、看板の無い店に初日から多くのお客様がきてくださいました。
(雄大さん)妻はひたむきに、そして、まじめに豆腐と向き合っていました。今ももちろんそうですが、この場所で始めたころは特にそうです。土地が変われば豆腐作りにも影響がでます。たとえば、この軽井沢という土地は以前に豆腐作りを学んでいた群馬の土地と比べて標高が300mほど高く、水の沸点が異なります。他にも、こういった細かい変化に対応するために、試行錯誤が求められました。日々、検証のもと豆腐作りに取り組んできたのです。
– 豆腐はどのように作られるのでしょうか。製造工程を教えてください。
(友実さん)まず、原材料である大豆を量り、バケツで洗います。つぎに、大豆を潰しやすくするために水に漬けて一晩おきます。そうして、水を含んだ大豆をグラインダーと呼ばれる臼を使って、水を加えながらすり潰していきます。磨砕(まさい)と呼ばれるこの工程を経ることで、大豆のたんぱく質を抽出しやすくするのです。つぎに、すり潰したものを蒸気で煮蒸します。熱することでたんぱく質が固まり、大豆の成分を余すところなく抽出することができます。最後に熱したものを布でこします。絞りという作業になりますが、この工程によって大豆のたんぱく質をたっぷりと含んだ「豆乳」と繊維質の「おから」に分離するのです。この豆乳が、豆腐へと形を変えていきます。
櫂(かい)と呼ばれる道具を使用し、にがりを打つなどの昔ながらの方法と最新の技術を組み合わせて製造する様子
– そのようにして作られるのですね。加工の際に、特に気を付けていることはありますか。
(友実さん)どの工程も気が抜けないのですが、「豆乳濃度」には神経を使います。豆乳の濃さは、大豆に水を加えながらすり潰す「磨砕」のときに、加えた水の量で変わります。この工程は、豆腐の良し悪しを左右する大事な工程です。
また、「にがりの打ち方」も重要です。にがりはすぐに反応するため、豆乳に対して「最適な量を素早い時間で全体に混ぜ合わせる」ことが重要なのですが、にがりの量が多すぎると豆腐が粗くなってしまったりするので、非常に繊細な作業です。ちなみに、にがりは、私が惚れ込んだ「佐賀県の天然にがり」を使用しています!
– 「遠くの豆を混ぜると味が良くなる」とお聞きしたのですが、なぜでしょうか。
(友実さん)師匠のさらに師匠から受け継がれている言葉です。日本列島の北の方で栽培された大豆には「甘味」、南の方で栽培された大豆には「旨味」があると言われています。そのため、国内数箇所の契約農家から仕入れた大豆をブレンドし、豆ごとの特徴を生かすため豆腐によって配合を変えて使用しています。
– 契約農家から大豆を仕入れているとおっしゃいましたが、大豆の自家栽培もされているそうですね?
(友実さん)そうなんです!豆腐づくりの中で、原材料である大豆は何よりも大切です。ですが、実情として、たとえば、同じ一袋(30kg)に入っている大豆でも状態に差があります。「んー!抱きしめたい!」と思う大豆もあれば、「えー、なにこれ」と思う大豆もあります。原材料にこだわらなければ「これ以上の向上は見込めない」と思い、主人にこの思いをぶつけました!(笑)。
(雄大さん)「大豆から作っている豆腐」は同業者の先輩の方々にも、すごく羨ましがられます。
先輩方も本当は大豆から作りたいと思っているのですが、「空いている土地がない」、「栽培する時間がない」など、そこまでは手が回らないみたいです。私達夫婦の役割分担がなせる業でしょう。
(友実さん)主人が栽培したナカセンナリと佐賀県の天然にがりで作るお豆腐。私は幸せ者ですね。
豆腐の製造工程で発生する「おから」を畑に戻す循環農法で栽培される大豆
– 役割分担について詳しく教えてください。
(雄大さん)豆腐屋は男性が豆腐を作り、奥さんがそれを支えるところが多いです。しかし、偶然にも、うちの場合は先に豆腐と出会ったのが女房でした。また、性格的にも、女房は一人黙々と集中するのが好きなタイプです。そのおかげか、私が全体のマネジメントと農業を担当し、女房が豆腐作りを行うといったように棲み分けができています。男性が豆腐を作りに専念していると大豆の自家栽培は難しいと思います。
無農薬・無化学肥料の大豆畑で農作業に勤(いそ)しむ雄大さん
– 大豆栽培に関連して教えてください。国産大豆は貴重といわれますが、理由はどこにあるのでしょう。
(雄大さん)生産量が少ないためです。作ればよいと思うかもしれませんが、採算が合わないのです。カナダ産など国産よりはるかに安い外国産大豆も多く流通しており、価格競争が激しく、大豆の価格自体が安いです。また、最終消費者への販売チャネルを持っている方もいますが、多くの方は仲介業者をはさみます。つまり、大豆の価格も安いうえに、仲介手数料も掛かるのです。大豆栽培だけだとやっていけません。
– そのような実情があるのですね。ところで、ショーケースに並んでいるこの黒い豆腐はなんでしょうか。
(友実さん)「黒ごま入りよせ豆腐」です!原材料はナカセンナリを使用しています。この豆腐は師匠の教えになかった初めての豆腐です。(笑)繰り返しになってしまいますが、2年間師匠の教えを守り、アレンジを加えず製造方法を死守してきました。
基本、豆腐屋は余計なものを入れたがりません。入れてしまうと経験値が狂い、「何もわからなくなる」ためです。ぽつんと佇む小さな豆腐屋には試す暇などありません。
豆腐を求めてきてくださるお客様に応えなければいけないのです。
試行錯誤の末、完成した黒ごま入りよせ豆腐
– そこまでしてこの豆腐を作ろうと思った理由が気になります。
(友実さん)「やってみたい!」と思ってしまったんです。「どこかに豆腐を卸したいね」と主人と相談する中で、真っ先に浮かんだのが「星のや」さんでした。和食でちゃんと豆腐を扱ってくださる「星のや」さんは私の中で、町一番の憧れでした。それまで、営業活動をやったことがありませんでしたが、勇気を振り絞ってアタックし、「星のや嘉助」さんで扱っていただけることになった時は本当に嬉しかったです。
料理長とお話しする中で、「豆腐に色々と混ぜることはできないか」と提案をいただきました。師匠に相談したところ、「固まるわけない」と一刀両断されてしまいましたが、どうしても諦めきれませんでした。どうしても「応えたかった」のです。この提案をきっかけにして、「黒ごま入りよせ豆腐」の開発が始まったのです。
(雄大さん)豆腐屋は大型店の格安商品や後継者不足により10年間で1300件倒産しています。年間を通して、豆腐を販売していくためには軽井沢の「冬」を乗り越えなくてはなりません。卸し先の確保はとても大切なのです。
– 2013年3月10日にオープンしてから月日が経ちました。改めて感じるところや変化について教えてください。
(友実さん)いちばん大事なのは“自分”だということです。
疲れている・焦っているなどの状況で豆腐作りを行えば、いつもと同じように作っているはずでも、「豆腐が固まらない」といった微妙な変化が現れます。私の状態・心情がお豆腐さんにも伝わるのです。
開店当初は、「いつまで続くかな?」なんてよく言われていましたが、月日が経ち、出会う人が変わり、豆腐が変わり、訪れる人が変わりました。ですが、いい意味で私は変わっていません。「ただただ豆腐に向き合う日々が楽しい」のです。毎朝、お店に立つ前には下腹の丹田に力強くグッと力をいれます。私にとってのリセットなのかも知れません。お店を明るくするのも私、いちばん大事なのは“自分”なのです。
– 素敵な出会いや出来事について教えてください。
(友実さん・雄大さん)原材料から作っていることが認められて、普通では出会えないような方、本当に質の良いものを求めるグループの方々に採用されてお取引ができていることです。お店をやっていたからこそ、こういった「出逢い」に恵まれましたので豆腐屋をやっていてよかったと心の底から思っています。
– お店の注目商品やPRをお願いします。
(友実さん・雄大さん)すべての商品がオススメですが、その中でも、金・土・日の週末にしか作らない「色大豆を使用した豆腐」があります。
通常は黄大豆という種類の大豆を使用しているのですが、大豆にはその他にも、青大豆や黒大豆といった種類があります。色大豆は通常の大豆に比べて採れ高が低く、収穫量は3分の1程度です。それゆえに希少で、青大豆は「畑のエメラルド」、黒大豆は「黒いダイアモンド」などと呼ばれています。これらの大豆を使用した色豆腐は、普通のものよりも味が濃厚です。
金・土・日の週末にしか作らないのは…私の体力の問題です(笑)。半分冗談ですが、原材料がなかなか手に入らないので「量が作れない」のと、とにかく「手間がかかる」のです。
色大豆を用いて製造された豆腐商品
軽井沢ブランド認定商品である黒大豆100%よせ豆腐
また、「揚げ物」もはずせません。「白ほたるがんも」という商品がありますが、この商品は、もめん豆腐を水抜きして、ミキサーにかけます。なめらかな状態になったところで、人参、椎茸、蓮根、黒ゴマ、ひじきをたっぷりと加えます。そのあと、熊本産の純菜種油でカラっと揚げます。シャキシャキッというお野菜の食感と豆の甘味、油の香ばしさが楽しめるひと品です。
国産の純菜種油で揚げているこだわりある揚げ物商品
– 販売やPR方法で工夫されている点はありますか。
(友実さん)来てくださるお客様を一番大切にしています。私たちのお豆腐は、スーパーで売られているようないわゆる大量生産のものではありません。自家栽培の大豆を使用して、加工し、一丁ずつ手で切って水槽に入れるなど一連の作業に物語があるお豆腐です。お値段も安くはありませんので、ちゃんと会話をして「作り手の思い」を説明することが必要だと思っています。
こうした当店のこだわりに共感いただけるお客様は、自然と周りのご家族やご友人に伝えていただけますので本当に感謝・感激です。FacebookなどのSNSもやってはいますが、何よりも「お客様からの発信」が効果的だと思います。
– 軽井沢の発地市庭に「白ほたるキッチン」をオープンされて、従業員の方も増えました。
(友実さん)ある方から「人を雇うことは、お金を出して苦労するようなものだ」と言われたことがあります。そのとおりだと思う反面、得るものも多く、多くのことに気づかされます。人を雇用するにあたって、「職場に一人でいるときに力を抜かないかどうか」を重要視しています。人の本質は他人の目がないところで現れると思うからです。
また、お客様の前に立つべきではないと判断した場合には、前職で食に関する仕事をしてきた方でも、食材に一切触らせません。厳しいと思われるかもしれませんが、それだけ私たちは一途にお客様や豆腐と向き合っているのです。
軽井沢発地市庭に出店している白ほたるキッチンの外観
– 白ほたる豆腐店の今後の目標について、教えてください。
(友実さん・雄大さん)「白ほたるキッチン」では、飲むお豆腐プレミアムやがんもバーガーなど、豆腐を使用した商品を展開しています。今後、豆腐のイメージを覆すべく更にジャンルを拡げて化学物質を使わずに自然なものだけで作るメニューを増やしていければと思います。また、お金を求めたくないので、大きくせずに、自分たちの手が行き届く範囲で経営していきたいです。
将来の夢になりますが、「山」が欲しいです。(笑)その山にコテージを建てて、泊まりに来てくれた方に山で調達した薪を使い、豆腐料理を提供して、心を休めて欲しいです。山という資源を10年サイクルで循環させていくことも面白いですよね。
5年後には、自然と水が湧いてくるような土地で、ワサビを育てながら豆腐を造りたいと思っています。名前は「白ほたるガーデン」がいいかな(笑)。
豆腐のイメージを覆すべく開発された関連商品
– 歩みを振り返って抱負をお願いします。
(友実さん)計算してやってきたわけではありませんが、思い返してみると緻密な計画を進めているかのようでした。小さなことでも一歩ずつ、とにかく一歩ずつ積み重ねてきました。その積み重ねがあったからこそ「思う方向へ進んで来られた」のだと強く思います。
私と話して元気になったといってもらえると嬉しいので、これからも楽しくやっていきたいです!
– 貴重なお話をありがとうございました。
(友実さん・雄大さん)こちらこそ、ありがとうございました。白ほたる豆腐店をどうぞよろしくお願いします!
白ほたる豆腐店の魅力がギュッと詰まったギフトセット
大切な方への贈り物にいかがでしょうか!(ホームページのショッピングからご購入いただけます。)
ブログ記事作成|佐久地域振興局 商工観光課(電話番号 0267-63-3158)
企業情報 (白ほたる豆腐店)
所在地 |長野県北佐久郡軽井沢町発地1712
電話番号 |0267-41-0245
ファクシミリ|同上
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