2011.07.21 [ 信州大自然紀行環境保全研究所飯綱庁舎 ]
霧ヶ峰(霧ヶ峰の夏)
湿原の空は広い。湿原の楽しみ方はいろいろあるけれど、空の広さを味わうことも大きな魅力のひとつです。長野県、いや日本列島の真中にある霧ヶ峰。その高原の一角に、八島ヶ原というみごとな高層湿原があります。ここは約100万年前の激しい火山活動を経て、山間地にぽっかりと残されたゆるやかな起伏の場所です。年平均気温で7~8℃にも及ぶような大きな気候変動を繰り返し経験し、やがて氷河期が終わり、約1万年前からの急激な温暖化とともに、ミズゴケに覆われた雄大な高層湿原が生まれました。霧ヶ峰と湿原はそういう大地の歴史がつくりあげたすばらしい自然遺産です。広い湿原を見渡すには、うんと高いところに登らなければなりません。近くの鷲ヶ峰の上から見ると一望できます。奥の険しい山並みは八ヶ岳です。
今の季節、高原はニッコウキスゲなどの花が見頃です。けれども、最近増えすぎたシカが高原の花芽を食い荒らしてしまい、その影響が深刻になっています。八島ヶ原湿原の周囲も、シカ除けのネットで厳重に囲われるようになりました。車山の肩では、黄色いニッコウキスゲの花いっぱいの草原と、花のない草原が隣り合っているところがあります。下の写真の道をはさんで左側の花のあるほうは、じつはシカ除けの電気柵で囲われて、かろうじて花が残った場所なのです。
霧ヶ峰の美しい草原環境は、農業を中心にした何百年にもわたる人々の営みがあって維持されてきたものです。その意味で、信州の高原に広がる半自然草原は立派な里山の景観といえます。戦後の人の暮らしの変化とともに草原環境も大きく変わりつつありましたが、さらにそれに追い打ちをかける勢いでシカによる深刻な影響が出てきました。そんなこともすこし気に留めて、涼しい高原を散策していただければと思います。
~ 雲にのれ 夏野のはてを はかるため ~
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