自然と遊ぼう!ネイチャーツアー

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別所温泉(フォッサマグナの海の底)

上田市郊外にある別所温泉は、平安時代とも、あるいは神話の時代にもさかのぼるといわれるほどに、古い歴史のある温泉です。近くには著名な寺社も多く、温泉地を含む塩田平一帯は”信州の鎌倉”とも呼ばれる落ち着いた観光地になっています。
温泉街を流れる湯川という川の脇には、縁結びの大樹「愛染カツラ」で有名な北向観音堂があります。参道の橋を通るときに見下ろすと、川底にごつごつした硬そうな岩が露出しているのに気がつきます。別所温泉は、歴史の古さが物語るように、もともと川底の岩の間からこんこんと熱い湯がわき出ていたものです。これには昔の人々もさぞ驚き、また不思議を感じたことでしょう。

この岩は、今から数百万年~1千万年前頃に形成された、ひん岩もしくは閃緑斑岩(せんりょくはんがん)と呼ばれる火成岩です。地下から熱いマグマの脈が地層に入り込み、地表に噴き出す前に固まった半深成岩です。このマグマ由来の岩体が今日の別所温泉の熱源になっていると考えられます。さて、湯川をはさんだ対岸には、北向観音の本坊となっている常楽寺というお寺があります。1000年以上の歴史をもつ古刹で、その隣には、国宝八角三重塔で有名な安楽寺もあります。先週末に訪ねた時には、どちらもしんしんと降る雪の中にありました。


今の時期、観光客はまばらですが、遠方から散策に来る人は絶えません。でもお寺を見る人はあっても、寺の裏山に目を向ける人はほとんどいません。ましてや、ぽろぽろ崩れやすく、汚れた感じに風化した泥岩に注意を向ける人などは、まずいません。しかし地学の世界では、ここは別所層という地層が命名された場所として特別の意味をもっています。別所層は黒色の泥岩層が特徴で、魚の鱗や骨が化石になって含まれています。かつてユーラシア大陸の一部が裂けて陥没し、フォッサマグナの海ができたときに、今からおよそ1500万年前頃、その深い海の底に堆積した泥なのです。いわば、日本が大陸から分離し、列島誕生のはじまりを告げる大地殻変動の象徴です。その泥の地層を焼きながら、やや遅れて入り込んできたのが湯川の底にみえた岩でした。信州でもっとも古い温泉地には、さらに昔の日本列島誕生にまつわる海底の記憶がしっかりと刻まれています。そんな時空を超える散策はいかがでしょうか。

~ 山奥に海を訪ねる雪のなか ~

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