2025.07.10 [ 計量検定所 ]
計量女子の計量検定所日記「メートル法の周知は大変でした」
こんにちは!計量女子です。
前回のブログでは、今年(2025年)がメートル条約締結150周年であることを取り上げました。
日本がメートル条約に加盟したのは1885年(明治18年)ですが、条約加盟後「長さ単位=メートル」「質量単位=グラム」という概念がすぐ国内に浸透したわけではありませんでした。
1891年(明治24年)に制定された度量衡法(計量法の前身)では、長さ単位は当時使われていた「尺」、質量単位は「貫」を基本として、それぞれをメートルやグラムに換算するという二元的単位体系が採用されました。
その後、1921年(大正10年)にメートル法を基本とする旨の度量衡法改正がありました。
「尺→メートル」「貫→キログラム」への単位切替は、官公庁は10年、一般は20年という法改正後の猶予期間を設けていたようですが、尺貫法が深く根付いていたこと、戦時下であったことなどの理由から国や自治体では新単位の普及に大変苦労したようです。
長野県も例外ではなく、長野県度量衡検定所(長野県計量検定所の前身)では、メートル法を普及させる目的の読み物を作成して一般向けに配布しました。
この冊子、発行年はどこにも記載されていませんが、後述する「はしがき」に皇紀2595年(昭和10年)12月と記述があることから、その頃発行されたものだと思います。
度量衡器の使用心得(附 メートル法家庭メモ)長野県
「はしがき」は当時の度量衡検定所長の手によるものと思われますが、せっかくなので内容を紹介します。
(旧字体は新字体に修正、読み難い漢字にはふりがなを付しました)
度量衡器は私共の日常生活と極めて深い関係を有し且(かつ)取引上、証明上重要な使命を果(はた)すものですが、平素其(そ)の取扱に注意せぬと容易に差狂(くるい)又は損傷を来(きた)し、其(そ)の結果法規に違反することが少(すくな)くないのであります。
故(ゆえ)に度量衡器の使用者は其の取扱い上注意すべき事柄を予(あらかじ)め会得し置くことは極めて肝要な事と云わねばなりません。
度量衡器を日々営業に使用する人は勿論(もちろん)使用せぬ人と雖(いえど)も度量衡器に対しては深き理解と注意とを持ち日常生活を合理的に且(かつ)経済的に解決することは今日(こんにち)私共の生活改善の上から考えても一日も忽(ゆるがせ)に出来ない事であります。
宜(よろ)しくこの冊子を熟読し度量衡器に対し正確なる認識を深めていただきたい所以(ゆえん)であります。
はしがきの後は、物差しや桝(ます)、はかりといった計量器の使用方法が説明されていますが、ここでは省略します。
冊子の最後に「メートル法単位表」「メートル法換算早見表」が掲載されており、こういった資料を使って当時の行政が尺貫法単位からメートル法単位への切り替えを世間に促していたことが分かります。
基本的なところを見てみると
1メートル=3尺3寸
1リットル=0.55435升
1キログラム=0.26667貫
1尺=0.30303メートル
1升=1.8039リットル
1貫=3.7500キログラム
メートル法に慣れ親しんだ私達が度量衡法の単位を見ても「?????🤔」となってしまいますが、当時の人達もメートル法の単位を見て「?????🤔」となっていたに違いありません。
一番最後のページには「お買物便覧」という、身の回りのものをメートル法単位で購入する時に手助けになりそうな資料がありました。
白米はキログラムで
酒・醤油・油類(※)はリットルで
呉服・太物はメートル法で
菓子・砂糖・茶・薪炭・乾物・青物はグラムで
※現在の計量法では、商品として販売される食用植物油脂の計量単位は質量(グラム)とされています
当時の買い物、特に食品類は現代のように容器包装に入っておらず量り売りが主流だったので、店側も消費者も「グラム?なんですかそれは?????🤔」と困惑しながら商品を売り買いしていたのではないでしょうか。
なお、1952年(昭和27年)3月に計量法(旧計量法)が施行された結果、メートル法は昭和34年(1959年)に完全実施となりました。
1921年(大正10年)の度量衡法改正時点では一般への普及目標を20年としていましたが、実際には倍近くの年月(38年)を費やしたということになります。
使い慣れたもの、特に生活に根差した単位を変更するということがいかに大変であったか、この小冊子からも垣間見ることができます。
【おまけ】
「度量衡器の使用心得」にはメートル法単位表以外にも単位に関する資料が色々掲載されていましたが、温度の資料に江戸っ子の入浴温度(45℃)をどうしても入れないといけなかったのか、それだけが分かりませんでした🤔
このブログへの取材依頼や情報提供、ご意見・ご要望はこちら
松本地域振興局 総務管理課
TEL:0263-40-1955
FAX:0263-47-7821