2017.04.14 [長野県大町岳陽高等学校教諭 大西浩さん]
高校教諭×山岳部 vol.3
3泊4日の夏山合宿など、山岳部の活動はなかなかハードに思えますが、「皆、全然辞めないんですよ」と大西さん。帰り道で、「もうこんなのやだ」と半泣きになっている生徒も、帰ってきた次の日には「楽しかった。次はどこに行く?」と聞いてくるそうです。高校生も惹きつけられる山の魅力。大西さんはどう感じているのでしょうか。
初心を忘れず、謙虚な気持ちで
- 大西さんにとって、長野の山の魅力は?
日本の山の良さになっちゃうかも知れませんが、四季折々の美しさがあることですね。年間通じて生徒を連れていくのも、それぞれの季節に美しさがあるから。季語でも「山装う(やまよそおう)」「山眠る(やまねむる)」「山笑う(やまわらう)」とかありますが、本当にいろいろな表情を見せてくれます。
大町岳陽高校付近からの北アルプス
- 他県の山岳部から羨ましがられるんじゃないですか?近くに山があって。
それはあります。お昼まで山頂にいたのに3時くらいには帰ってきて、「さっきまであそこにいたんだぞ」なんて言えますから(笑)。北アルプスは、全国の山岳部の生徒たちの憧れですし。
- 恵まれた環境ですよね。
それを活かさない手はありません。特に冬山になるとすぐに危険だという人もいますが、安全を確保して、無理をせずステップアップして、適切な山を選べばいいんです。努力すれば、非日常の場所を楽しめる。そういう楽しさがあるということを教えることに意味があると思っています。
- ただ危険だというのではなく、何が危険か、どうすれば安全かを知ることが大事だと。
それは高校生に限らず、大人も同じです。昔は山岳会に入ることによって、教育システムのようなものがちゃんと確立されていました。でも、中高年の登山ブームあたりから瓦解してしまいました。山岳会にも入らず、講習も受けず、勝手に行く人が増えてしまった。
- 気軽に行ける、ということは良い面も悪い面もあります。
遭難というのは、危険の中の一握りで、事故にならない限りは忘れてしまいます。そうなると、「あの山へ行きました」というだけで、武勇伝になっちゃうんです。見ていると危ないと思うようなことがいっぱいあっても、行って無事に帰ってくれば、技術を身に付けないまま、どんどん経歴に箔が付いてしまう。
国立登山研修所の読図コースの一コマ
読図中の山岳部員の生徒さん
- そうならないようには、どうすればいいんでしょうか?
県山岳総合センターが作った「信州 山のグレーディング」を活用するとか、もっと言えば人に教えてもらうことも大事だと思います。僕は毎年、地図とコンパスの使い方の講習会で教えていますが、相当、山へ行っている人でも使えない人が多いんです。夏山で普通に歩いている限り、コンパスの出番はないんですが、もしものときに使える技術なんですよ。普段から地図を「見る」じゃなくて「読む」くせを付けることで技術は上達しますし、山岳部でもそう教えています。
- 技術を身に付けて、経験も積んでいかないといけない。
でも、山にベテランってないんですよ。年数でいえば僕は大ベテランかもしれないけど、そうではなくて。例えば、人についていくような登山をずっとしていても、地図を読めるようにはならないですよね。どんなに海外の高い山を登ったと言っても、現地のポーターが荷物を持ってくれて、後ろをついていくだけなら、高所に順応できればできてしまう。
- 先生が思う、ベテランというのは?
地図を見て、登山口から今日のゴールまで、標高がこのくらいで、ここに岩場があるから、どのくらい時間がかかるかを読むことができる。もし雷がきたらどうするかとか、さまざまなリスクを考えて、装備や食糧計画を立てられることじゃないでしょうか。
- 判断ができるかどうか、ですか?
判断力をつけるためには、先読みをしないといけませんから。だいたいは、行って帰ってこられるんですよ。質を問わないと、ベテランとは言えないですよね。
- でも、そういう意味では先生もベテランでは…?
いえいえ、まだまだです。山は、その都度違いますからね。同じ山でも雨が降っているのと晴れているのとでは違う。初心を忘れずに、謙虚な気持ちでいることが必要だと思っています。
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