2011.04.18 [南信州ビール(駒ヶ根市) 竹平考輝さん]
100年、200年先もこの地で、皆で作っていけるものを
2010年6月に開催された「ジャパン・ビアフェスティバル東京2010」で、全国各地の地ビール58銘柄の中から、最優秀ビールに選ばれた発泡酒「アップルホップ」。製造するのは長野県駒ヶ根市にある地ビールメーカー「南信州ビール」です。開発の中心人物でもある同社駒ヶ岳醸造所の所長・竹平考輝さんにお話を伺いました。
100年、200年先もこの地で、皆で作っていけるものを
-「アップルホップ」はどういうお酒なんですか?
酒税法上は発泡酒になります。製法は完全にオリジナルですが、ヨーロッパなどに多いフルーツビールに近いイメージですね。
原料のリンゴは、大きさや形状で生食用として出荷できなかったものを使っています。収穫できる品種が1週間~10日くらいで次々と変わります。紅玉からスタートして、シナノスイート、シナノゴールド、王林、ふじという順番ですね。なので、異なる品種の「アップルホップ」ができあがります。使うリンゴによって味も違いますね。例えば紅玉は酸味が強いとか、シナノスイートとシナノゴールドは酸味と甘みのバランスが非常にいいタイプだとか。ふじもスタンダードですが、シナノスイートやシナノゴールドとはまた違うバランスで酸味と糖度が非常にいいですね。
-最初からリンゴでお酒を作ろうと?
さかのぼると「地ビールの『地』の意味ってなんだろう」というところにいっちゃうのですが…。「南信州ビール」は1996年、県内初の地ビールメーカーとして営業を開始しました。でも、地ビールといっても、ビール麦もホップも輸入。そんな状態で「地」の意味というのは、その土地の水を使うとか、その土地で作っているということにどうしても留まらざるを得ない状況でした。実は以前、ビール麦の生産にチャレンジしたことがあるのですが…発芽工程が難しくて、一度、挫折しているんです。
じゃあ、ほかに、お酒になりうるものはないかと考えたときに、南信地区では果実が盛んに作られていますから、それを使おうという話になりました。信州は、リンゴが非常にスタンダードなので、受け入れてもらいやすいんじゃないかということもありました。
-いろいろな種類のリンゴを使うことも当初から考えていたんですか?
最初から想定していました。これはもう、私の個人的なこだわりですが…「アップルホップ」が売れればOKではなくて、それを切り口にしてお客さんの興味が農家のところまでいってほしいという思いがあるんです。「紅玉ってどういうリンゴ?」「王林って青リンゴらしいけどどういう形なんだろう?」とか興味を持ってもらいたい。商品に関してトレーサビリティを出しているのは、安心・安全という意味よりも、つなげたいという気持ちが強いです。
総称して言ってしまえば、「どのように文化をつくっていくか」という思いが強いですよね。すべての食品はそれに関わる人、もとになるものを作っている人がたくさんいます。でも、メーカー側の経済的な理由で、なるべく安く商品を提供するために国産ではなく輸入のものを使う。そうすると、メーカーはいいかもしれないけれど、それまでその品物を作ってきた過去の経緯や文化性はどうなってしまうのか…。もともとは、地域の人たちでスタートして、作ってきたものじゃないですか。だから、地域の人たちでつくり上げてきた文化性を大事にしながら、100年200年経ってもその地域で、皆でやっていけるように頑張っていかなければならないんじゃないか…ということをすごく考えています。
食品は、工業製品のようにいつでも同じものはできない
-開発は農家の皆さんの協力を得ながら進めていったんですか?
最初は厳しかったですね。生のリンゴは原料として使えないので、ジュースに加工する必要がありました。厳密に言えば、ジュースといっても通常のものとは違って、すりおろして煮詰めるだけの、無添加のもの。それをどこかに頼まなくてはならないということになって、地元の農家さんにお願いに行ったんですが…。もともと、生食用として出荷できないリンゴというのは農家さん自身がジュースなどに加工して、加工品として出荷しているんです。そんな中で、一企業のためだけに特別なことはできないというお話でした。それでもあきらめずに私の主旨や、こういうものを作りたいという思いを話して、ようやく協力してもらえることになりました。
通常とは違う工程でやってもらっているので、その代わりというわけではないですが、搾汁するときはうちの会社のスタッフが行って手伝っています。「ここまではお金を払ったからやってください」と商売ベースですべてを進めるのはちょっと違う気がして。昔の日本にあった連携というか…そんな言葉すらなく一緒にやっていた時代がありましたよね。どこかでギブアンドテイクがある中でやっているから信頼が生まれると思うし、そういう世界の中で作っていきたいですね。
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