信州魅力発掘人

信州に魅せられ、活動する人たちの言葉には「信州の魅力」が凝縮されています。信州の魅力を掘り下げ、それを語る「信州魅力発掘人」。山の強さ、美しさ、厳しさ、素晴らしさを知る人たちが「山の魅力」を伝えます。

女猟師×皮革活用 vol.2

2013年、泰阜村の地域おこし協力隊となり、「けもかわプロジェクト」をスタートさせた井野さん。時間をかけて、徐々に活動の幅を広げていきました。

大切な動物の命を、捨てずに活用するために

- プロジェクトは、シカの「肉」ではなく、「皮」の活用なんですよね。

私が協力隊になった当時、県内には10カ所くらい処理施設がありました。そのほとんどが南信州で、肉を扱う店も多かった。競合するのは良くないと思ったので、肉ではなく、皮を利用する方法を考えました。

- 実際にはどんな活動を?

1年目は、情報収集とつながりをつくるように努めました。「信州ジビエ研究会」や「日本ジビエ振興協議会」が立ち上がったこともあり、いろいろな団体に所属したり、全国各地のイベントに行ったりしました。2年目から本格的に、革製品を作っていくようになりました。

- どういったものを?

ストラップなどの小物類が中心です。駒ヶ根で革を使って創作活動をしている人が声を掛けてくれて、ベビーシューズやスリッパなども作ってもらいました。昨年は、障がい福祉サービス事業所に製作をお願いして、県職員用の名札ケースも手掛けました。

県職員用の名札ケース

- 鹿革は、ほかの動物と比べてどんな特徴があるんですか?

鹿革は毛穴がきめ細かくて、割と柔らかく、吸水性も高いです。牛革と比べると、厚みも違います。もちろん、牛革も薄くはできるんですが、鹿革はもともと薄いので。素材としてはすごく良いものなので、分かっている人は鹿革を喜んでくれますね。

- 加工しやすい素材なんですか?

それは作るものにもよります。例えば財布となると、形をキープできるくらいには芯となるものがあったほうがいい。鹿革は1枚だと布みたいな感じなので、柔らかさが出るようなものが向いています。袋物のバッグとか、財布でも折り畳みの柔らかいものとか。

- 製品を作り始めて、反応はありましたか?

「皮を活用しようと思わなかった」「そういう発想はなかった」と言われたのは印象的でした。プロジェクトを続けるうちに、全国的に見ても活用しているところが増えてきているような流れはあります。でも、どうしても元手かかかることではあるので、その辺は難しいですね。

- 元手がかかるというのは?

牛革もですが、皮をなめすためには、業者にお願いする必要があります。そうすると、原価がかかってしまうんです。本当は捕獲したシカの皮を全て活用できるようにして、いろいろな人に使ってもらいたいのですが、お金との兼ね合いもある。生のものなので、夏場は大変ですし、環境を整えるのにも時間がかかります。

処理前のシカの皮

- 企画段階と、実際に活動をやってみて、ギャップを感じることも?

最初は正直、肉以外なら皮だ、という発想でした。昔から使われているものでもあるので、「皮ならいけるだろう」という感じで。活動が具体的になる中で、前段階というか、なめして使えるようにするまでにも問題があると気付きました。皮はある。でも活用できるようにするまでの間のことをちゃんとしないとうまくいかない。そこができれば、循環が生まれるんですけど。

- 素材として使えるようにするまでが、意外と大変なんですね。

3年目には、協力隊に新しく2人が入ってくれたので、一緒に活動を行いました。任期が終わり、昨年の春からは個人事業になりましたが、これだけで生計を立てるとなるとまだまだですね。

- 今後は?

まずは、事業として成り立つようにしていかないと。扱う皮の量を増やして、もっと活用してもらえるように働きかけていきたいと思っています。あと、今、村内に食肉処理施設を作っている最中で、今春に完成予定なんです。これまでは、シカを捕っても近隣の処理施設に持っていくまでに1時間以上かかっていました。ときどき、村でシカが捕れたらもらいにいくこともあるんですが、ちゃんとした施設がないので、私の家の冷凍庫にストックがたまる一方で(苦笑)。

- それは大変(笑)。じゃあ施設ができれば、活用しやすくなりますね。

肉も無駄なく循環できるようにしていきたいし、鹿肉を食べる人を、村の中にも増やしたいですね。県外に出していくのもいいんですが、せっかくなら近くに住んでいる人も日常的に食べてくれるようになればいいなと思います。


村内の食肉処理施設は、これまでも何度か計画されてはいたそうですが、実現には至らなかったとのこと。念願の食肉処理施設ができれば、「肉の活用もしていける」と、更なる夢が膨らみます。

PROFILE
1988年、熊本県生まれ。島根大生物資源科学部卒。2010年4月に泰阜村の「NPO法人グリーンウッド自然体験教育センター」に就職。2013年4月、同村の地域おこし協力隊に就任し「けもかわプロジェクト」をスタートさせる。3年間の任期を終えて、2016年4月から個人事業として継続。

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