2013.08.07 [ 信州大自然紀行環境保全研究所飯綱庁舎 ]
荒船山(国を分かつ天空の楽園)
前回につづき、長野県と群馬県の県境にある地学遺産の紹介です。
荒船山(標高1423m)は、長野県東部の妙義荒船佐久高原国定公園の一角にあります。この周辺は、那須火山帯と富士火山帯がぶつかる地域。別の言い方をすると、東北日本の火山弧と伊豆-小笠原の火山弧が交差する場所です。そのため、数百万年も前からの活発な火山活動の歴史があります。
荒船山から妙義山にかけては、新第三紀鮮新世の古い火山岩類がその後の侵食作用によって選択的にけずられてできた奇岩が多く、それらが奇妙な形の山々をつくっています。下の写真は、麓の国道254号線沿いからみえる荒船山です。
空に浮かぶ巨大な船のような姿が印象的で、アニメ映画「天空の城ラピュタ」に出てくる空島を想起させるような岩山です。標高1070mの内山峠に登山口があり、そこから登山道をたどること約2時間、艫岩(ともいわ)という岩の上に着きます。ここで比高100m以上の大絶壁を見下ろすと、真夏でもゾクゾクします。
実際に登ってみると、この山の形の理由がよくわかります。比較的軟らかい火山灰まじりの火山礫層や、水底にたまったと思われる軟らかい砂岩と泥岩の地層から、突然硬くて黒いガラス質安山岩に地質が変わります。それとともに滝や岩場があらわれ、それが大岩壁に続きます。つまり、侵食にとりのこされた硬い溶岩が山の中心部を構成していて、そこが残丘(メサ)となって地表にとび出ているのです。そのため荒船山は眺望にすぐれ、近くは妙義山や浅間山、遠くは北アルプスの山々までを一望できます。
ここに立つと、信州側の大地全体が隆起していて、独特の地形と風土が展開していることがよくわかります。県境というよりも、上州・武州と信州との国境(くにざかい)を実感できる場といえます。荒船山の火山としての活動は約300万年前には終わったと考えられています。その後の侵食をうけ、当時の火山地形はもう残っていません。したがって火山岩からできている山ではありますが、火山とはいえません。
経塚山は、荒船山の南のピークで、標高としては最高地点ですが眺望は利きません。ただ、艫岩から経塚山にかけては不思議なほどに平坦な地形が続きます。絶壁に隔離された広葉樹の林とササ原は、まるで天空に浮かんだ楽園のようです。
~ 夏空を断ち切る岩の覚悟かな ~
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