2012.01.25 [セルコ(小諸市)代表取締役 小林延行さん]
「コイルの常識を超えた」コイル
「新・信州魅力人」では、メイドイン信州のすごいものづくり技術や匠の技をご紹介し、ものづくりを支える起業人たちの魅力に迫っています。
2回目は、「常識を打ち破るコイルをつくる」という、小諸市のセルコ社長小林延行さんの登場です。
モーターやセンサー、電気回路など、あらゆる製品になくてはならないコイル。小諸市のセルコは、そんな様々なコイルを製造しています。
「コイルを極めたい」という従業員約20人の工場でつくられるコイルは、単なるコイルではありません。「高密度コイル」と名付けられた、常識を打ち破るコイル…一体どんなコイルなのでしょうか?
まったくすき間がない!?「ほぼ100%の密度」コイル
-セルコはコイルの会社ですが、どこがスゴイのですか?
セルコのすごい技術は、「高密度コイル」です。
電線を普通に巻いた場合、空気の層が入ってしまう。しかしセルコのコイルは、まったくすき間がありません。すき間がないので、その分コイルの効率が上がり、より小型化が可能になります。
-どうやって「高密度」を実現したのですか?
高密度コイルは、まず巻き線をきちっと巻く。その後に圧縮をかけるんです。それによってコイルの密度が高まりました。
コイルの技術をイメージするため、裁縫の「糸巻き」を想像してみてください。
適当に巻いてしまうと、中央部分が盛り上がってしまったり、でこぼこしてしまったり、糸巻き全体の太さが均一になりません。端から丁寧に、しかも2段目からは下の糸の間にしっかりと挟まるように巻きつけていくことで、きれいな糸巻きになります。
ふつう、圧力をかければ巻き線が切れてしまいます。でも我々の技術はきちんと巻くことができるから、一か所に圧力が集中しないので切れません。
特許もとることができた「高密度コイル」。これがうちのコア技術です。
-コイルづくりは、海外にシフトしないのでしょうか?
私たちは、日本でつくることにこだわってやっています。
本音を言えば、中国やタイで何十万個、何百万個というコイルをやりたい。でも日本のものづくりは大量生産ではだめなんです。
我々が目指すのは「技術集約的」ものづくり。
少量多品種・非常に難しい・人がやらない・人ができないようなコイルづくりを得意とするようになりました。
実は、以前は大量生産をやっていました。そのころは手間のかかる仕事は請けなかった。
でも、会社が苦しくなるにつれ、少量でも試作でも、なんでも受けざるを得なくなった。
会社が一時大変な状態になった時、どうにか生き延びようとしてやったのが、「他人がやらない」「他社ができない」コイルだったんです。
これが1年経ち、2年経ち、3年経ち、気が付いたら「セルコしかできない」技術になったのです。
-国内でのものづくりにこだわる理由は?
以前は海外も含め、3つの工場で120人もの従業員がいました。
下請けの仕事って、何百万個の受注が毎月決まって来るんです。何も考えずに、ただ来たものに対してQCD(品質・コスト・納期)さえ守ってさえいればどうにかなっていた。
でも、それを続けていたせいで一時期、会社は倒産寸前になってしまったんです。
いくら規則を守っていても、注文がなくなってしまえばそれっきり。「より安くできる」ってところに仕事が流れてしまいます。
従業員を減らし、工場を統合し、小諸に集約して現在の10数人体制になりました。
それでも売上がなくなって「どうやって生き残っていけばいいのか?」考えた結果、「営業しなくちゃだめだ」と気付いたんです。下請けからの脱却です。
待っていてもだめ。自分たちでお客を探さないと…とやっていたら、「他人がやらない」「他社ができない」技術で道が開けてきました。
-「究極のコイル」はどこで活用されているのですか?
うちのコイルは、ものづくりの様々な現場で採用されています。
詳しい会社の名前は出せませんが、半導体をつくるための装置の心臓部であるモーターにはうちのコイルが採用されています。
モーターだけでなく、ねじ穴の位置を感知するためのセンサーにも採用されていますし、そういった精密、最先端の部分に使われています。
「高密度コイル」のセルコ。
実は、会社が生き残るために必死に考えた結果が「他人がやらない」「他社ができない」技術だったのです。
セルコのコアな技術は、意外にもこの”しっかり巻くこと”という基本。銅線をきれいに隙間なく巻く「匠の技」が、業界の常識を打ち破るコイルの技術につながっていたのです。
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