2012.06.11 [ 信州大自然紀行環境保全研究所飯綱庁舎 ]
戸隠山(北信五岳その3)
戸隠山(標高1904m)は北信五岳の5つの山(飯綱、黒姫、斑尾、妙高、戸隠)の中で、火山ではない唯一の山です。他の4つは、いずれも数十万年前以降に陸上の火山噴火によってあらわれた山々であるのに対し、戸隠山は400~500万年前に当時の海底火山から噴出した火山岩類の地層の一部が、堆積後に押し曲げられ、隆起し、侵食を受けて地表に露出したものです。火山というのは、噴火などの火山活動がつくった特有の地形を指します。その点、現在の戸隠山の地形をつくったのは、火山活動そのものではなく地殻変動と侵食作用によるものなので、これを火山ということはできません。
戸隠連山の西岳(2053m)から高妻山(2353m)にかけての険しい峰の連なりと、高原に屹立する巨大な岩壁が特徴的です。ここは古くから山岳信仰(修験道)の聖地になってきましたが、鎌倉時代の文書には嘉祥2(849)年に学問行者という偉い修験者が、九つの頭と1つの尾をもつ龍を岩戸に封じ込めて、ここを霊場として開いたと記されています。今でも戸隠奥社の脇には、九頭龍大神(くずりゅうおおかみ)がまつられていることから、もともとこの地には九頭龍信仰があって、それが後の戸隠山の信仰に引き継がれたと考えられます。
戸隠山塊は、善光寺平に隣接する西山の最奥にあり、豊かな水内郡(みのちごおり)を潤す幾筋もの川の源流部にあたります。したがって、九頭龍という水神をまつるのに、ここはまことにふさわしい場所であったことでしょう。伝説が語るドラマに負けないほどに、激しくダイナミックな地殻変動の歴史がこの岩壁には刻まれています。伝説に地学的視点を加えて想像をたくましくすれば、この岩山そのものが、かつて封じ込まれたという龍の背のようにも見えてきます。
歴史的に人との関わりの深い山ですが、切り立った岩場には肝を冷やすような難所があります。登山を楽しむには、しっかりした装備と経験が必要です。
~ 龍神の背(せな)にひとすじ 蟻のみち ~
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