2011.01.07 [信州うるし工房 彩(飯山市)藤澤一雄さん]
伝統工芸を身に纏う − Bi-sai
「飯山に伝統工芸として伝わる「飯山仏壇」。金具や宮殿(くうでん)、木地など分業でそれぞれ職人が担当をしています。
今回紹介するのはその中の蒔絵部門の伝統工芸士・藤澤一雄さん。蒔絵の技術をアクセサリーなどほかのものにも活かし、さまざまな作品を生み出しています。伝統工芸としての「蒔絵」や、2009年に立ち上げた蒔絵時計のブランド「Bi-sai(びさい)」などについて伺いました。
伝統工芸を身に纏う − Bi-sai
「Bi-sai」は一つ一つ、腕時計の文字盤に手描きで蒔絵を施しています。今は、私も含めて4人で描いているんですが、かなり細かい作業なので、月に30枚くらいしかできません。名前は、「美彩」「備才」「微細」という3つの意味からとって付けました。
日本製ケースを使った「うるわし」シリーズは「漆」と「麗しい」の2つの意味を込めています。もう一つの「匠」シリーズはスイス製ケースを使っています。スイスの手作り時計のメーカー・セドリックジョナーから問屋さんを通じて文字盤に絵を描いてほしいという依頼があって、生まれたものです。
-ひとつひとつが手作業で、本当に細かいですよね。
技術的なことでいえば時計の針は時針が一番下についているんですが、時針と文字盤との間が0.7ミリメートルしかないんですよ。その間に高低差のある「高蒔絵」を施すのに一番苦労しました。あまり立体感を出すと針に当たってしまうし、かといってさらっと平坦な蒔絵にすると印刷みたいになってしまう。それでは面白くないので、何とかその間でうまくいくように、いろいろ試行錯誤してきました。螺鈿(らでん)を用いたものもありますし。一つひとつ、高さを測って描くわけにもいかないので、もうこれは勘ですよね。
ほかにも、秒針は針ではなく中心にあるダイヤが秒毎に回転しているんですが、これは諏訪の職人さんの特許技術を使っています。針がないほうが蒔絵がすっきり見えるので、なるべく見えるようにと思っていて。企画の段階からこの特許はぜひ使いたいと思っていました。
-お客さんの反応はどうですか?
(文字盤に数字が入ってないので)時間が分かりづらいね、という人は買ってくれません。これを見て「電車に遅れちゃう」とか、1分1秒を争う感じの人には向いていない時計なのかもしれませんね(笑)。「時間を知る」と言うよりは「伝統工芸を身に纏う」という感じで使ってもらえればと思っています。
人が作っていない市場を探す
-蒔絵時計を作るきっかけは何だったんですか?
もともとは飯山仏壇の蒔絵を専門にやっていました。40歳になったくらいのころは仕事が充分にあって、とにかく毎日仕事をこなしている感じでした。こういう世界、伝統工芸というものには不況は関係ないという気持ちがありました。でも、住宅事情などが変わってきて、仏壇も様式が変わってきた。そうすると蒔絵を描く部分が減ってきてしまったんです。需要自体が減ったこともありますが、生活の様式が変わってきて、畳があって仏壇があって…というばかりじゃなくなってきて。仏壇も家具調の、部屋に馴染むようなものが好まれるようになってきました。
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