その人気は日本でも広まり、日本洋酒酒造組合によると、2020年はコロナ禍にもかかわらず国内出荷量が195万リットルと前年から5割増。2016年まではほとんどなかった輸出も2017年から急増し、輸出金額は2021年に30億円を超え、過去最高額となりました。前年比は74%増を記録するなど、新ジャンルのスピリッツとして存在感を増しています。
長野で注目を集めるつくり手のひとつが、佐久市の酒蔵「芙蓉酒造協同組合」です。長年、日本酒や焼酎づくりを手がけ、特に減反政策で米の代わりにさまざまな農作物が作られた先代の時代からは、全国各地で生産される地域性を色濃く感じる農産物を使った焼酎の委託醸造も取り組んできました。長野県内では坂城町のねずみ大根や小布施町の栗などが、同酒造がつくった特徴的な特産物の焼酎としてよく知られるところです。

こうした多様な素材と向き合ってきた醸造経験と、時代の流れに応じてきた柔軟性、そして自社の酒類を生かした発展性のある独創的な酒造りができないか。そう考えた6代目蔵元の依田昂憲さんが開発に乗り出したのが、自社の日本酒造りの副産物である酒粕を蒸留して生み出す粕取焼酎を使ったクラフトジンでした。
「表現方法として、あらゆる原料が使えるのがクラフトジンの利点です。世界的に市場が熱を帯びているジンは、当社が培ってきたノウハウが活用できると思いました」

縁あって日本におけるクラフトジンの第一人者・三浦武明さんに出会えたことからアドバイザーとして迎え入れ、まずはジンの文化や伝統、製法を勉強。多くの仲間の協力も得て、プロジェクトを進めていきました。「長野県佐久市の日本酒蔵で、焼酎もつくりながら、さらにジンをつくる」という一貫したストーリーを商品に落とし込みたいとの思いのもと、目指したのは、地域素材を使いつつも、ジン本来のおいしさを追求することです。
そこで、使う素材を2系統に分類し、ジンとしてのおいしさを成立させる素材と、長野の地域性を感じさせる材料を分けて考えたと言います。
「世界中で愛されるジンの文化に敬意を表し、ジュニパーベリーを中心に据えて、実際に私が地域を歩いて長野らしさを表現できると感じた素材をオンしていこうと思いました」

▲製法にもこだわり、ベーススピリッツにすべての素材を投入し蒸留するロンドンドライジンタイプでつくっていった依田さん
あくまで主役はジュニパーベリー。それを際立たせる脇役として、地域の森に入って見つけたクロモジや山椒、熊笹などの地域素材を、バランスを踏まえて配合させていったといいます。また、粕取焼酎が持つ日本酒由来の吟醸香を生かすために、相性のよいりんごなども加えました。
こうした香りから依田さんが表現したかったのは、長野の風景です。
「ジンは『香りの酒』と言われますが、対してクラフトジンは『風景の酒』だと思っています。香りでいかに地域を表現するか。長野県は7割以上が森林ですが、同じ森でも昼と夜では表情が異なります。昼の森のようなさわやかなジンはたくさんありますが、私はこのジンで、怪しげで探ってみたくなるような夜の森の雰囲気を表現できると面白いと思いました」

▲ビジュアルイメージでも夜らしさを表現
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