諏訪を体感!よいてこしょ!! 諏訪地方の新鮮な話題を 私たち職員がお届けします。

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謎のゴイサギ

恐竜が大暴れする映画『ジュラシック・ワールド』を見ました。いろんな生物の遺伝子を組み込んだ最強の恐竜が登場します。

『ジュラシック・パーク』のときからそうですが、このシリーズは、太古の恐竜を遺伝子工学で現代によみがえらせることについては「脅威の技術」ではあるが否定はされず、しかし、そこに人間の都合で遺伝子の編集などをおこなったときに手痛いしっぺ返しをくらうというパターンが共通しています。高度なテクノロジーは人間に恩恵をもたらす「良きもの」ですが、それを使う人間しだいで「悪しきもの」になるという技術論です。簡単にいえば鉄人28号です。鉄人は〈いいもわるいもリモコンしだい〉。リモコンを操る人しだいで、正義にも悪にもなるのです。

さて、映画の冒頭、恐ろしい爪をもつ恐竜の足がドスンと大地を踏んだと思ったら、それは実はカラスの足でした、という人をくったシーンがあります。90年代半ば、中国で羽毛のある恐竜化石が発見されて以来、恐竜の直系の子孫は鳥類であるということは今や小学生でも知っています。(むしろ小学生のほうが詳しい。)ただ、この映画では翼竜は出てきましたが、羽毛のある恐竜はでてきませんでした。(翼竜は爬虫類であり恐竜ではありません。)また、恐竜たちの恐ろしさは、主としてその口において表象されていました。牙のたくさんある口で獲物をガブッと捕まえます。今の鳥類の足や口も、恐竜的な恐ろしさを受け継いでいるように思います。

タイトルのゴイサギというのは、新種の恐竜・・・ではなく、どこにでもいる野鳥です。この鳥の何が謎かというと、その名前です。ゴイサギは漢字で書くと「五位鷺」。何だそれは、と私は思いました。

その前に、なんでゴイサギの話をするのかというと、話は一週間前にさかのぼります。林務課では、諏訪湖とそこに流れ込む主要な河川においてカモ類の生息数調査を毎年おこなっています。農業被害を予測する資料になります。今年も、鳥獣保護管理員の方々とどんな鳥がどのくらいいるか数えてまわりました。結果は、昨年とほぼ同じでした。(カモ類全体で279羽。その9割はカルガモ。)この時期はそんなに数は多くありません。年度内にあと2回、秋冬に調査します。そのときは5-6倍の数が来ると思われます。(種類は違いますが。)

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先日のその調査のとき、ササゴイという珍しい鳥が2羽確認できました。

鳥獣保護管理員の方が「ササゴイがいるよ」というので湖の中をのぞきこんだのですが、「そこじゃない、あそこだ」と石の上を指をさします。ササゴイというので、てっきり鯉かと思ったのです。この仕事をはじめて日が浅いのでご容赦ください。これはそのとき撮ったものです。

ササゴイ

ササゴイはサギの仲間で長野県のレッドデータブックに絶滅危惧種として載っています。見ることが珍しい鳥なのです。

ササゴイの鳴き声は「キューイッ」というもの。どこか品があります。くちばしが長く、獲物を捕獲しやすくできています。つつかれると痛そうです。さすが恐竜の子孫です。頭には、アニメの萌えキャラにある「アホ毛」みたいなのが生えています。鳥の「萌え」要素ですね。

私が気になったのは、鳥なのになんで鯉というのか。さっそくYAHOO!でググってみました。すると、○○ゴイという名の野鳥はほかにもミゾゴイ、サンカノゴイ、ヨシゴイなどいくつかおり、ゴイはゴイサギを略したものだそうです。(ここでタイトルと話がつながりました。)そのゴイサギのゴイは、『平家物語』ほかにある話に由来するといいます。ネットは手がかりとしては利用できますが、記述の真偽は当該文献にあたる必要にあります。そこで『平家物語』を確認したらこんな話がありました。

昔は草木も鳥も天皇の権威に従った。醍醐(だいご)天皇が外に出かけたとき、池の汀にサギがいたので六位の蔵人にあのサギを捕まえてこいと命じた。サギは天皇の宣旨に従っておとなしく捕まった。天皇はサギの中の王だと感心して五位に叙した。

それで五位サギだというのでしょう。でも、なんで五位なのか。六位の蔵人へのあてつけでしょうか。たぶんそうでしょう。お前は鳥より下だと。かわいそうな蔵人。おれをコケにしやがってと思ったでしょうね。気持ちわかるぞ。おれもな・・・ってまぁそこはいいとして、なんかおかしな話ですよね。いかにもこじつけめいています。こういうのを俗源(フォーク・エティモロジー)といいます。馬肉はうまいからウマという、梅もうまいからウメェという、わけではありません。「ウマ」は大和言葉のように見えますが、実は漢字の馬(バ、マ)からきています。「マ」一字では言いにくいので「ウ」がついた。「ウメ」も同じです。梅(バイ、メイ)の語頭に「ウ」が添えられたものです。大陸から来た言葉なのです。それを知らないと、駄洒落みたいな語源解釈になってしまいます。

命名する権利はそれを所有する人にあります。ですから命名譚の由来に天皇が置かれるのはよくわかります。さすが醍醐天皇。ゴイサギだからGSです。あ、それはダイゴですね。「GS、ちょーレアバード」

思うに、ゴイサギのゴイはその鳴き声からきているのではないでしょうか。ゴイサギって「ギョア」とか首を絞められたような悪声なんです。その「ギョア」がゴイと聞きなされたのではないか。聞きなしというのは、フクロウが「ホーホー」、ウグイスが「ホーホケキョ」と、人の音声にわかりやすく単純化されて聞きとるようなことです。そこに既存の「法華経」という意味が影響していきます。

鳥の名前は、鳴き声からきているものがいくつもあります。ウグイスも昔はあれが「ウークイ」と鳴いているように聞こえたんですね。カラスも「カァカァ」からきている。童謡「七つの子」で〈かわいかわいとからすは鳴くの〉の〈かわいかわい〉はカラスの鳴き声を音写したものです。それに子供がかわいいをかけてある。「旅の夜風」の〈ほろほろ鳥(どり)〉の場合はもっと複雑です。詳細は略しますが、作詞の西條八十はホロホロチョウを知らなかったようなので不思議な一致なのですが。

ササゴイのゴイはゴイサギからきているといっても、ササゴイやほかの何とかゴイが生物学的にゴイサギの下位分類かというと、現代の分類ではそうなっていません。サギ科でそれぞれ別の属に入っています。今はゴイサギという名前はある一つの種類の固有名として用いられるようになっていますが、昔はいろんな鳥が一括りにゴイサギと呼ばれていたのでしょう。名前とそれが指す実物が比定できませんから推測するしかありませんが、平安時代や鎌倉時代に双眼鏡はなかったし、テレビゲームに熱中して目が悪い人もいなかったとしても、遠くにいる5-60センチの小さい鳥をそうそう見分けられたとは思えません。そこでだいたいの範囲をゴイサギと一括りにして、そのあとで、だんだん細かく分類していったということでしょう。ゴイサギは包括的な名前で、ほかの○○ゴイは、それが細分化されていった名前なんだと思います。

ゴイサギというのは音声から来た名前ではないかと言いました。姿を見分けにくい生き物を分類するときに耳に入る鳴き声を用いるというのは一つのやり方です。時代がたつにつれて次第に細分化するときに、今度は視覚的な情報を手がかりにするようになった。ササゴイ(笹五位)は羽が笹に似ているからその名があるといいます。ゴイサギから派生したササゴイやほかの○○ゴイという名前は、音声による古い分類がまずあって、そこに視覚的な要素(姿かたちや生息場所)による差異化が生じていったと考えることができます。逆にいうと、鳴き声をベースにしたネーミングは古い時代のもの、視覚的要素をもとにしたネーミングは新しい時代のものと考えられます(特に、小さい鳥や夜行性のものはそうでしょう)。

駄文を読むは一見に如かず。天気がいい日に諏訪湖のほとりで野鳥を観察してみたらどうでしょう。野鳥があつまるスポットがいくつかあります。こんど行ってみると楽しいカモ。

カモ

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