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制約を乗り越え旨くなる長野の米づくり

自然と人々の努力が生み出す文化的景観「姨捨の棚田」
名月会会長 金井實さん

古くから月見の名所で有名な千曲市姨捨地区。眼下に千曲川や善光寺平を臨む傾斜地には約40ヘクタール、1,500枚の棚田が広がっています。

「姨捨の棚田は強力な粘土質で養分を保持する力や保水力のある土壌です。栄養分を多く含んだこの土壌がアミノ酸を多く含む旨味の多い米を育むんですよ。ほかほかの温かいご飯はどんな米でも美味しいのが当たり前。私は冷めたときこそ米の真価が問われると思っていますが、姨捨棚田の米は、冷えても粘りがあって美味しいんですよ」

こう話すのは、棚田の保全活動をしている名月会会長の金井實さんです。

「姨捨の棚田」は、三峰山(みつみねさん)の噴火により発生した大規模な土石流が形成した斜面と、水源である更級川上流の「大池」が有機的に結びつき形成されています。
室町時代の書物にも「姨捨の棚田」に関する記載が見られますが、開発が本格化したのは江戸時代のこと。幕府の政策で年貢の徴収量を上げるため、平野部だけでなく、条件の悪い山の傾斜地にも田んぼが作られました。

米作りには肥沃な土壌に加え、豊富な水が欠かせません。姨捨の棚田では、江戸時代に築かれた「大池」の水を更級川に落とし、棚田付近で更級川から再取水する方法が取られています。

「大池の水源は『弁財天』のお社付近から湧き出ている水ですが、これが不思議なんですよ。この辺りには北アルプスのような高い山々はありませんが、山に降った雨水などが大地にしみわたり、時間を経て非常にいい湧水となり、枯れずにコンコンと湧き出ているんですよ」と金井さん。

さらに、棚田という特徴的な地形に水を行き渡らせ、排水を可能にするには知恵が必要でした。水田の下層に作られた「ガニセ」と呼ばれる石組の暗渠(あんきょ)による排水方法が工夫されることにより、棚田は斜面全体へと広がり、独特の文化的景観が形作られました。
※地下に埋設した水路のこと

「先人たちが食いつなぐため、大変な苦労をして、石を積んで水路にし、下の田へと水を送っていく仕組みを作りました。私はそこら中でよく喋るんだけど、この地の棚田は、土石流が形成した斜面、つまり自然の力と先人の知恵により築かれてきました。だから自然と先人たちには常に感謝の気持ちを抱いています。ありがたいね」と金井さん。

一方で姨捨棚田での米作りは担い手の高齢化や後継者不足が問題になっています。
現在13人いる名月会のメンバーの平均年齢は約74歳。棚田は米を作る人がいなくなれば、5年で荒廃地になってしまいます。そこで名月会が考えたのが1996年にスタートした「棚田貸します制度」です。棚田の景観を将来へと引き継ぐとともに都市部と農村部との交流を深めることも目的で、会員は田植え、草刈り、稲刈り、脱穀の各行事に参加し、収穫物はすべて会員のものになる仕組みです。現在では約90組の会員が参加しており、その半分がリピーター。年によっては貸し出す田がなくなるほどの人気なのだそう。

こうした保全活動が実を結び姨捨の棚田は、棚田としては全国で初めて国の名勝に指定され、2020年には文化庁が認定する日本遺産に認定されました。

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