「新野の雪祭り」

新たな一年が始まりました。初詣に行き、お節を食べて、この一年の息災と幸せを願った人も多いのではないでしょうか。

年末年始には、新年を祝い多くの行事が行われますが、年取りの魚や雑煮の具のように行事の内容は長野県内であっても地域により違いがあります。地理条件などから独特な行事が残り、人々を惹きつけている地域もあります。

今回は、そういった地域のひとつである阿南町新野地区の雪祭りを紹介したいと思います。

 

新野の雪祭りは、年が明けたばかりの1月14日から15日にかけて、新野の伊豆神社で行われます。

13日の神籤で役を決められた舞子らが夜通し様々な舞を舞います。墨、胡粉、ベンガラで目鼻を彩った素朴な木の面形をつけた幸方、茂登喜(もどき)、海道下りや、馬型を身につけて舞う人気演目の競馬(きょうまん)など、多彩な舞が代々受け継がれてきました。

「名」の由来

伝承では室町時代に起源がさかのぼるといわれるこの祭りを有名にしたのは、民俗学者の折口信夫です。

大正15年(1926)にはじめて見学に来て、直後に地元の小学校で講演し、古神道の形態を不完全ながら残すものだとして大いに評価しました。新野を含む三遠南信地域にはほかにも特色ある祭りがあり、以後毎年のようにこの地域に足を運び、時には東京へ招いて奉納公演を行うようになります。

当時、祭りの名称は「二善寺の祭り」「お宮の祭り」などと言われるだけで、はっきりと定まっていませんでした。しかし新野の外へ知られていくなかで、「雪祭り」の名が定着しました。これは大雪を豊作の予兆として祭事に取り入れていることからきた美しい名前ですが、祭り関係者のなかにはこの名に異論のある者もいたようです。

戦後、人手不足から祭りの期間を短縮しながらも行事の内容は減らさず、雪祭りは現在まで継承されています。近年は「郷土芸能子ども教室」の開催や阿南高等学校の郷土芸能同好会の発足で小中学生、高校生の担い手が育ち、舞子や笛の演奏で活躍しています。以前は、年少の頃に「市子」(いちこ、巫女のこと)としてしか関われなかった女子中高生も今では重要な担い手です。

雪祭りの「記録」

準備を含めると半月にも及ぶ雪祭りの内容は、関係者らによって江戸時代から断片的ながら書き残されてきました。東京公演を前に、地元の研究者である仲藤増蔵が折口に要請され、上下二巻の稿本にまとめた記録『信州新野の雪祭り』は、伊豆神社に奉納されています。その写しは雪祭り研究の重要な資料となりましたが、翻刻・出版は長らくされず、昭和44年(1969年)出版の中村浩・三隅治雄編『雪祭り』に一部が掲載されるのみでした。

平成27年度からは、南信州広域連合の民俗芸能保存継承プロジェクトの第一弾として記録調査が行われ、新野の雪祭り、年中行事の記録映像DVD2本と451ページにも及ぶ報告書が昨年刊行されました。記録の制作にあたっては『信州新野の雪祭り』を拠り所としたといい、その全文を翻刻して掲載しています。

阿南町の祭り

新野には雪祭り以外に、県内唯一の即身仏を春と秋に祭る「行人様」、楽器伴奏がなく音頭取りの歌と踊り子たちの掛け合いのみで踊られる徹夜の盆踊りなど、特徴的な祭りがあります。今回刊行された報告書では、雪祭りを生み出し、受け継いできた民俗的な背景として、それらの年中行事も記録されました。

阿南町にはほかにも、和合の念仏踊り、日吉の御鍬祭り等の歴史のある祭りがあり、地域の活性化を願って町内の国道151号は「祭り街道」という愛称がつけられています。

 

 

祭りを守り受け継ぐ人々、祭りに魅せられ記録してきた人々の努力によって今年も伝統の雪祭りは行われます。祭りが無事に終わり、皆様にとって実り多い年となりますことをお祈りいたします。

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当館所蔵の報告書とDVDです。館内で閲覧できます。

<参考資料>

書名             /著者名     /出版者  /出版年
『新野の雪祭り』 南信州阿南町新野雪祭等資産化事業実行委員会  2017
「仲藤増蔵著『信州新野の雪祭り』と折口信夫」(『伊那』2017年1月号所収) 櫻井弘人 伊那史学会 2017
『長野県文学全集5』/志賀直哉ほか24名/郷土出版社/1989
『雪祭り』/中村浩・三隅治雄編/東京堂出版/1969

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