麹が拓く食の新たな可能性
vol.2 甘酒×焼き芋の新感覚スイーツでこうじの魅力を発信
有限会社若宮糀屋4代目
代表取締役社長 花岡 拡和さん(左)
女将 花岡 慶子さん(右)
県下有数の味噌の生産地、岡谷市。明治から昭和初期にかけては蚕糸業のメッカとしても知られ、多くの製糸工場では工女が住み込みで働き、食事に使う味噌は工場ごとに仕込まれていました。そのため、元は工場の宿舎だったという蔵が多いのが特徴です。
明治19(1886)年創業の「若宮糀屋」も、かつては養蚕と、味噌の原料であるこうじの両方を生業としていたとか。製糸業の衰退後もこうじ造りを続け、今では諏訪圏域に残る唯一のこうじ専門店になりました。
こだわりは、味噌用、甘酒用、販売用でこうじを造り分けていること。ポイントは温度管理だそうで、生こうじで粒が柔らかいのが特徴です。また、販売用のこうじは木製の平たい室蓋(むろぶた)を使う昔ながらの製法を変わらず続けています。
こうして造るさまざまな米こうじなかでも、特に「若宮糀屋」ならではの誕生秘話があるのが、甘酒用です。
これは、かつて先代がこうじの時間管理を失敗し、発酵の過程で米が溶けてベタベタにしてしまった米こうじをベースに、当時、修業中の身であった拡和さんが「なんとか生かしたい」との思いで開発したのだそう。甘酒が一番甘くコクが出るこうじを研究した結果、米のコクと旨味が際立つこうじが生まれました。
そして、その甘酒を使い、2020年に生まれた大ヒット商品が「甘酒焼き芋」です。低温でじっくりと焼いた芋に、糖度35度以上の濃厚な甘酒をたっぷりと塗り、再び焼いたら出来上がり。
素材の旨みに、ほのかな甘酒の風味が香り、香ばしい焦げ目との相性も抜群です。サツマイモは“シルクの街”岡谷が普及に力を入れているシルクスイートを使用。シルクのようになめらかな舌ざわりと上品な甘さが特徴のサツマイモです。
店頭で販売を始めると、おいしさが一気に評判となり、客数は従来の3倍に増加。客層も、以前に比べ若い人が増えたそう。当初は手探りだったため冬季のみの販売でしたが、今では通年販売して通販も開始し、すっかり主力商品のひとつになりました。
この人気商品が生まれた背景にあるのは、地元愛です。
「コロナ禍でさまざまなイベントもなくなり、外出も楽しめないような状況でした。そこで、店に足を運んで買い物に来てくれるお客様に喜んでもらえるような、こうじ屋ならではの独自性のあるものを作って地域を元気づけたい、自分たちの仕事を通して社会に何かアクションを起こしたいと思っていました」
こう話すのは、女将の慶子さんです。開発のヒントになったのが、常連客から聞いた「焼き芋を甘酒に漬けて焼くとおいしい」という話でした。
「うちの甘酒は、ノンアルコール、ノンシュガーなので、赤ちゃんからお年寄りまで飲むことができます。その甘酒を使い、岡谷が普及を図るシルクスイートを使ってみたいという思いから開発が始まりました」
そんな慶子さんが、次に見据えている新たな取組が、宿泊型の味噌・こうじ造りの体験サービスです。2022年にはモニターツアーを開催し、8割以上の参加者から高評価を得たのだとか。
「以前から、こうじの製造現場には高い価値があると思っていました。独特の香りや感触も音も、ここで生まれ育った人たちには普通のことですが、嫁いできた私にとっては、芸術的にも文化的にも伝統としても素晴らしいと感じていたんです。このクオリティの高さを多くの人に知ってもらう機会があったら、と思っていた中で、考えついたのが体験ツアーです」
ツアーのテーマは「体感を取り戻す」。老舗店のこうじの可能性の追求は、まだまだ続いていきます。
若宮糀屋
住所:岡谷市大栄町2-10-12
電話:0266-22-2930
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※この記事は2023年10月時点の情報です。
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