長野県で誕生し育まれた優れたブランドを表彰する「信州ブランドアワード」。
「ゼロカーボン」がテーマの「しあわせ信州」部門と「NAGANO GOOD DESIGN」部門の各部門の大賞を受賞した2社を、各部門賞の中より4社をご紹介します。
南アルプス、中央アルプスという 2つの大山脈に囲まれる伊那市で、「信州の大自然を表現すること」をテーマに酒造りを行うのが、1911年創業の宮島酒店。
先代社長は、全国に先駆けて防腐剤(サリチル酸)を使わない日本酒造りに取り組むなど、地域に根差し、安心安全な酒づくりを続けてきた酒蔵です。
地元に寄り添い米にこだわる
現社長で4代目の宮島敏さんは、原料となる酒米へのこだわりを更に追求し、約30年前から地元の契約農家による酒米栽培を開始。農薬や化学肥料を極力使わない米づくりを行なってきました。
そんな宮島酒店が近年力を入れているのが低精白による酒造り。中でも、国内でも珍しい「契約無農薬栽培米を用いた91%という超低精白の純米酒」のブランドラインが「超玄(ちょうげん)」です。
この超低精白による酒造りに取り組むきっかけとなったのは、契約農家さんと一緒に田に入った時でした。
「宮島さんのところでは、この米でどんな酒をつくるんだい?と尋ねられたんです。安全であるとともに、旨いといわれる酒を造りたいのは当然じゃないですか。品評会では、雑味がなく研ぎ澄まされた日本酒が評価されることが多いので、私もそこを目指していました。ですから、この米を小さく小さく削って「純米大吟醸酒」を造っているということを伝えたんです。返ってきたのは、『一緒に汗かいて丹精こめて作った酒米なのに、なんでそんなもったいないことができるんだね 』という一言でした。」
現在、約20〜30軒の契約農家の約9ヘクタールの田圃で美山錦、金紋錦、ひとごこち、山恵錦を栽培しています。
全国新酒鑑評会で平成5年から5期連続で金賞を受賞するなど、多くの評価を得てきた宮島酒店の価値観を覆される想定外の言葉でしたが、品評会で高評価を得ることが全てではない、地元の農家と寄り添いながらこの土地ならではの酒を醸すことがこれから自分の成すべきことだと気づく転機になったそうです。
現社長で4代目の宮島敏さん
超低精白だからこそ感じられる米の旨み
「『超玄』の91%というのは、飯米の白米とほぼ同じ精米歩合なんです。だから日本酒も同じレベルにこだわりたかった」という宮島社長。酒は米が溶けることによって豊かな味わいが生まれますが、低精白だと米が溶けにくく、また麹菌が米の中まで食い込まないことから麹の力が弱くなる場合もあるそう。一般的には、大吟醸酒では50%以下、純米酒や普通酒であっても70%ほどの精米歩合のものが多く、一般的な酒造りの手法が通用しないといいます。
ここで役立ったのが、10年ほど前より製造している「玄米あま酒」の製造ノウハウ。これまで雑味とさていた苦味や渋味が、酒米の持つ本来の旨みとして感じられる、調和のとれた酒に仕上げることができたといいいます。
「超玄」の2022年春の商品ラインナップは、「S91」(山恵錦)、「H91」(ひとごこち)、「M91」(美山錦)の3種類。
長野県が開発し2020年に品種登録された新酒米の「山恵錦」は、吟醸酒に使われることが多く、柔らかい膨らみが出るそう。「超玄」では山恵錦ならではの柔らかみがより一層感じられ、宮島さんは「超玄」シリーズの中心に据えています。
1978年に品種登録されて以来、長野の酒のメイン品種である「美山錦」は、宮島酒店では元々辛口の酒用として使っていました。「超玄」では美山錦のすっきりとした酒質がさらに研ぎ澄まされており、山恵錦と比べると少し線が細くは感じるものの、夏向きですっきりと飲むのに向いているとのこと。
「ひとごこち」は、91%精白だと輪郭のはっきりとした、少し武骨さも感じる酒に仕上がり、チーズとの相性もぴったり。
これからの時代にあった日本酒のスタイルを
大切な資源をできる限り活かすという「超玄」の理念は、ラベルにも具現化。瓶の回収や洗浄時の負担を減らすことを意識して最小限の面積にした中で、最大現の表現とするデザインが意識されています。
循環型農業を早くから取り入れるとともに、食品ロスの削減や環境保全など、さまざまな面からゼロカーボンを実施し、商品を通して表現していることが評価され、信州ブランドアワード2021のしあわせ信州部門(テーマ:ゼロカーボン)の受賞につながりました。
今後はさらに超越した“精白しない”玄米での酒造りをしてみたいとのこと。食糧危機が叫ばれる中、100年後の子供たちに明るい未来を届けるためには、より米を大切にした酒造りという視点が必要ではないかと考えています。
「これからの時代、すべてがサスティナブルであることが必須条件になってきます。超玄が、お酒を飲む人の価値観やライフスタイルを変えていくきっかけになっていってほしい」と宮島社長。超玄を作り出した思いは、100年先の未来へとつながっているのです。
※この記事は2022年5月時点の情報です。取扱商品等は変更になっている場合がございますので、ご了承ください
このブログへの取材依頼や情報提供、ご意見・ご要望はこちら
営業局
TEL:026-235-7249
FAX:026-235-7496