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信州ブランドアワード2022

新時代を拓く信州ブランド
信州ブランドアワード2022

しあわせ信州部門 部門賞
「勝藁(かちわら)」
2022テーマ「地域再生・活性化に寄与する製品、サービス」

日本唯一の土俵の俵製作から稲わらをブランド化し、わらの可能性を追求して地域活性化へ

合同会社わらむ(わら細工職人団体:南信州米俵保存会)(飯島町)
代表 酒井 裕司さん

大相撲になくてはならない土俵。年6回開催される本場所では毎回、新しいものが作られています。その土俵を日本で唯一手がけているのが、飯島町の合同会社わらむによるわら細工職人団体「南信州米俵保存会」。製作を一手に担うのが、合同会社わらむ代表で、わら細工職人の酒井裕司さんです。

もともと松川町の出身で食肉店のサラリーマンとして働いていた酒井さん。米作りが盛んな飯島町に移住し、驚いたのが、水田の多さと子どもの少なさでした。そこで、町おこし事業と趣味のマラソンを掛け合わせ、ランナーが米俵を担ぎながら走るマラソン大会「米俵マラソン」を考案。直面したのは、世の中に米俵をはじめ、わら細工を作れる人がほとんどいないという現状でした。

「自分で作るしかない」と考えた酒井さんは、なんとか地域内で米俵を作れる職人を探し出し、弟子入り。すると、新しい技術を覚える楽しさも見出すとともに、伝統的技術が廃れてしまう危機感も覚えたと言います。

「かつては、草鞋(わらじ)や蓑(みの)など日常に当たり前のようにわら細工があり、その技術が親から子へと伝承されてきました。しかし、化学繊維やプラスチックなどの進化とともにわら細工も衰退し、このままでは技術と文化が途絶えてしまうと感じたのです。わら細工は作るのに手間と時間がかかりますが、日本神話にも登場するほどの歴史があります。今、私が引き継がなければ、伝統技術も歴史も消失してしまう。妙な責任感と使命感が芽生えました」

そこで、2013年にわら細工を作る同好会を設立。さらに2015年には一念発起して起業し「南信州米俵保存会」を立ち上げました。

とはいえ、当初は知名度もなく、仕事のない日々。アルバイトを掛け持ちしながらひたすら練習し、技術を磨いていた2018年のある日、突然舞い込んだのが、大相撲の土俵の俵作りです。それまで手がけていた職人が急病で引退し、急遽、声がかかったのです。

「こんなに小さな会社に日本相撲協会から依頼されたことが信じられませんでしたが、まさに、わらにも縋(すが)る思いで試行錯誤と研究を重ね、2018年11月の九州場所に初納品。テレビで自身が製作した土俵を見たときは、夢を見ているような不思議な気分でした」

それが地元新聞をはじめ、さまざまなメディアに取り上げられると、瞬く間に「南信州米俵保存会」の名が知れ渡るように。続々と注文が入り、世界遺産の春日大社のしめ縄の製作も依頼されるようになりました。このしめ縄は、人の手で綯(な)うわら細工としては日本最大のサイズです。このように事業が軌道に乗るにつれ、酒井さんはわら細工の伝統の存続と後継者の育成を考えるようになりました。

「農業の効率化が進んだ現代は、コンバインでの稲刈りが主流になり、稲わらが刻まれてしまいます。稲わらがなければ、技術があってもわら細工はできません。それに、土俵の俵作りの後継者育成のため、見習いのうちから給料を支払える組織をつくらないといけないと感じました」

そこで売上向上を目指し、わらの価値を高めるためのブランド化を検討。考えたのが「勝藁」でした。

「勝藁」は、米作りの副産物である稲わらに付加価値を与え、さまざまなわら細工を作ることで地域活性化と農業や稲作の振興を目指すために考案されたブランドわら細工。相撲用語で「土が付く」とは、勝負に負けることであり、また、台風などで田んぼの稲が倒伏すると土が付き、品質が低下してしまいます。そこで同社では稲が倒れないよう栽培し、土が付かない(負けない)という意味を込めて「勝藁」と命名。縁起物として、海外からも多くの注文が入るほど人気を博しています。

「国内にしめ飾りメーカーはいくつかありますが、大相撲の本場所の土俵を作れるのは当社だけ。“土が付かない”負けない稲わらとして『勝藁』を名乗れるオンリーワンの強みがあることを打ち出そうと考えました」

使用する稲わらは地域の在来種「白毛餅米」をはじめ、わら細工用の数種類の品種を特別に栽培。ストーリー性のある商品により、売上は確実に向上しました。

また、しめ縄用の稲は出穂前の緑の濃い7月頃に「青刈り」をしますが、刈った後の株から新たに生えた稲は11月頃に収穫でき、品質的にも問題のない米になります。農家にとっては収穫期(繁忙期)を分散でき、7月には稲わら、11月には米の二期作ができるようになって収入も増加しました。

▲わらの価値を高める取組により、稲わらの買取価格が米よりも高値に

加えて、福祉施設にも作業を依頼し雇用を創出するなど、「勝藁」を使って社会的弱者も活躍できる環境も生み出し、わら細工を地域の特産品に育てることで地域活性化も推進。稲わら1本に付加価値をつけて地域経済を回していく「わらしべ長者プロジェクト』と名付けられたこの取組は、2019年に農林水産省で開催したビジネスコンテストで最優秀賞を受賞しました。

さらに、誰でもわら細工が学べる道場も開設。今後は100人ほどの職人団体をつくることで、わら細工の伝統工芸品への認定を見据え、組織と協会の設立を目指しています。

▲デザイン性を高めたさまざまなオリジナル商品やニーズに応じた特注品の製作も。駒ヶ根市の早太郎温泉郷「山野草の宿二人静」内の「ぴんころ神社」には、わらむのわら細工職人作の巨大な道祖神と、狛犬ならぬ狛亀(駒亀)、健脚祈願の大わらじが祀られている

▲食育の一貫から開発した稲わらを使った納豆手作りキットは、国内外からオーダーが入るほど人気。今後は発酵食が盛んな健康長寿・長野県の新名物としての販売も目指す

▲稲わらのみの販売も開始。高知名物、わら焼きによるカツオのたたきのわらも出荷していることから、BBQ用などアウトドア事業での稲わら販売事業も展開していく

「わらは捨てるところがありませんし、稲藁を販売している同業者は用途が限定されています。当社がさまざまな用途のわらやわら細工を先駆けて全国展開することで、地域を稲わらの一大産地にしたい。わらにはさまざまな可能性があり、毎日ワクワクしています」

本来、不要とされ、廃棄されるものに付加価値を与え、新たな産業を創出して地域の活性化へ。斬新な着眼点によるアップサイクルが持続可能な地域づくりへとつながっていきます。

合同会社わらむ(わら細工職人団体:南信州米俵保存会)
住所:上伊那郡飯島町飯島1482-3
電話:0265-95-3315
合同会社わらむHP オンラインショップHP

※この記事は2023年5月時点の情報です。取扱商品等は変更になっている場合がございますので、ご了承ください

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