2026.03.12 [ 山好き館長の信州便り ]
桜吹雪に一人立つ:人生の新しいステージに進むあなたへ(FMぜんこうじ「図書ナビ」第36回)
別れや旅立ちの季節に寄せて
みなさま、こんにちは。県立長野図書館の森です。FMぜんこうじの「ひるどきもんぷらワイド」、 2026年3月10日(火)に放送された「図書ナビ」コーナー、第36回目の内容をご報告します。少し春めいてきた今日この頃、「長野市立長野図書館のロトウサクラが昨日開花しました」というニュースから、中川さんのトークは始まりました。3月は、友人や家族の有難さを感じる季節でもありますね、ということで本日の一曲目はEvergreen Love Theme from “A Star Is Born”(愛は永遠に)(YouTube)でした。
中川さん:一歩ずつ春が近づいてきましたね。3月は別れや旅立ちの季節でもあり、期待に胸弾ませる季節でもありますね。なんとも言えない気持ちになりますが、こんな気持ちを森館長はどんな風に表現されますか??(笑)
森:中川さんからの問いかけを受けて、一瞬「桜吹雪の中に一人で立つ自分」というイメージが浮かびました。
桜吹雪の中に一人で立つ…このイメージはどこから?
森:なんでしょうね、この心象風景は。ふっと浮んだ光景なので、自分でも分析してみたくなります。「ぽかぽかとした春の陽気の中で満開の桜を愛でる」、というのとは違っています。一人で風に吹かれて、花びらが散っているのは、厳しさに晒されている感じがします。でも、それだけではなく、どこか清々しさも感じられます。
たぶん、この心象風景は、自分自身の体験から来ていると思います。私は、長崎で生まれ育って、大学入学のため上京しました。親元を離れて、東京で一人暮らしを始めたんですね。入学式の前に、アパートから大学まで、自転車をこいで行ってみたんです。大学にはすごく立派な桜並木があって、春休みで誰もいないキャンパスで、満開の桜並木の下、一人、桜吹雪の中を自転車で走りました。この時、なんだかすごい「解放感」を感じたんです。全く新しい環境で、初めての一人暮らしで、まだ友だちもいない、そんな孤独や不安と、新しい世界に踏み出す嬉しさがない交ぜになって、「わーっ」って心の中で叫びながら自転車をこぎました。
わたし、実はつい先日57歳になったので、40年くらい前の思い出です。老成するにはまだちょっと早いかもしれませんが、こんな思い出が「桜吹雪の中に一人で立っている自分」をイメージさせたのかな? と思います。
中川さんはいかがですか? この季節、どんな言葉で表しますか?
中川さん:この季節、いろいろな気持ちがごちゃ混ぜになる感じもするんですが、太陽がさんさんと差している中、友人たちと写真を撮ったり、笑い合いながら話しているイメージがあります。…ちょっと幼い感じもするのですが(笑)。
森:分かる気がします!何だか切なくて、淋しくて。でも次のステージへの希望もあって。泣き笑いしちゃうような。私も卒業式の時はそんな感じでした。
中川さん:今日のテーマは何でしょうか?
森:せっかくなので、学校の4月始まりの話を深堀してみたいと思います。子どもの頃から、卒業式は3月、入学式は4月というのが当たり前だと思っていました。でも、外国のお話を読んでいると、6月に学期が終って長い夏休みの後、9月に入学するという話が出てきます。
例えばモンゴメリーの『赤毛のアン』。マシューとマリラという高齢の兄妹が、畑仕事の手伝いをしてくれる男の子を孤児院から引き取りたいと思うのですが、手違いでやってきたのが、赤毛の女の子、アンでした。持ち前の好奇心で、さまざまな問題を引き起こしつつも、カナダのプリンス・エドワード島の自然の中で、豊かな感受性を育んで行くアンの物語には、本当に引き込まれます。
成長したアンは、「6月の学期」が終ると、上の学校に入学するために受験します。そして長い夏休みを経て、9月に入学することになるんですね。子ども心に、「あれ?なんだか変。入学式は春じゃなくっちゃ」と思ったのを覚えています。
日本に住んでいると、学校が4月始まりなのは当たり前。そして就職する時も、春休みを挟んで仕事が4月に始まるのは当たり前。でも、それが当り前じゃないと知ったのは、日本の大学が、留学生をたくさん受け入れたり、大学生を海外の大学に送り出したりする際に、「学期のズレが問題になるから9月始まりにしたらどうか」という議論が出てきたときでした。
「レファレンス協同データベース」を使ってみる
森:そもそも、いつから日本の学校は4月始まりになったんでしょうか。そして、世界では、何月始まりが多いんでしょうか?こういう時に、頼りになるのが、国立国会図書館の「レファレンス協同データベース」です。
森:「図書ナビ」でも何度か話題になりましたが、図書館には、調査のお手伝いをする「レファレンス」という機能があります。その調査結果や調べるノウハウを、全国の図書館が登録しているデータベースが「レファレンス協同データベース」なんです。
例えば、「なぜ日本の学校は4月入学なのか」、という疑問があったとき、このデータベースで「4月入学」とかいうキーワードで検索してみると、そのものずばりの事例が出てきました。仙台市民図書館が、実際に受けたレファレンスの事例です。
『学校ことはじめ事典』という本によれば、世界の多くの国は9月から始まります。日本も、明治期の前半までは9月が多かったのですが、今から140年前、1886年(明治19年)に、高等師範学校(のちの東京教育大学、今の筑波大学)が4月始まりとなり、そこから広がったそうです。4月から始まる理由は3つあって、
- 徴兵令で軍隊に入る届出が4月1日になり、学校に進学する人材を確保するため
- 国や県の会計年度が4月からに改正され、徴兵や学校の事務もそれにならったため
- 学年末試験の時期が、むし暑い6月では学生の健康上よくないため
ということなんですね…「えーっ、そういう事だったんだ!?」とビックリですよね。
4月は桜が咲く、春は物事の始まりの季節だから…というイメージは、後付けだったと。考えてみたら長い日本列島、ちょうど入学式の頃に桜が咲く地域ばかりではないですし、どうして雪が降るような寒い時期に受験があるのか、大変だなぁと、正直思っていました。
「国立国会図書館デジタルコレクション」を使ってみる
ところで、この情報の出所、出典である『学校ことはじめ事典』は、1987年(今から約40年前)に出版された本なんですが、「国立国会図書館デジタルコレクション」という、本の全文がネット上で読める、「デジタルアーカイブ」で、読むことができます。
著作権の状況によって、ネット上でそのまま読めるもの、利用登録をすると読めるもの、 国立国会図書館に行けば読めるもの、さまざまですが、「調べ物」をする環境は本当に便利になって来たなと思います。こういうことも、図書館の窓口でお尋ねいただくと、レファレンスしてもらえますよ。
日本の文化、風物詩 ―春は別れと出会いの季節
中川:今月の一冊お願いします!
森:元々のいきさつがどうであれ、春は別れと出会いの季節…というのは、日本の文化、風物詩ですよね。この何とも言えない“切なさ”を描いた小説を持ってきました。恩田陸さんの短編集『図書館の海』に入っている、『春よ、こい』という作品。卒業式の日を迎えた二人の少女の物語で、デジャ・ブ、桜の木の下で「この光景はいつか見た記憶がある」…という、デジャ・ブをモチーフにした作品です。物語の中で、卒業式の日、先生から生徒たちへのはなむけの言葉として、和歌が贈られます。
◆ ことしより春知りそむる桜花(さくらばな) 散るといふ事は ならはざらなん ◆
『古今和歌集』の紀貫之の歌で「まだ樹齢の幼い桜の樹が、今年初めて花を咲かせた。咲くことは習っても、散ることは習わないでほしい」という意味です。物語にはもう一首、こんな和歌も出てきます。中川さん、読んでみていただけますか?
中川さん: ◆ 春ごとに 花のさかりはありなめど あいみん事は いのちなりけり ◆
森:ありがとうございます!「春が来るたびに花は咲くけれど、会えるのは命あってのことであるよ」…同じく『古今和歌集』で、読み人知らずです。なんだか切なくなっちゃいますね。
恩田陸さんは、直木賞・本屋大賞なども受賞されていて、「ノスタルジアの魔術師」とも呼ばれる作家さんです。今回ご紹介した『春よ、こい』が入っている短編集『図書館の海』は、恩田さんのいろいろな作品への導入になる短いお話が沢山入っているので、これから読んでみようかな、と思われる方にぴったりだと思います。独特の世界観を、ぜひ味わってみていただければと思います。
中川さん:恩田陸さんといえば、『蜜蜂と遠雷』で、直木賞と(2度目の)本屋大賞を受賞されましたよね!
新しいステージへ進む皆さんへのエール
中川さん:リスナーの皆さまには、新しいステージへの準備をされている方もいらっしゃると思います。そんな方にエールを是非!!
森:はい!なんちゃって短歌を詠んでみました。
◆ 桜花 吹き散らす風は「幸あれ」と門出の君の 背中押すなり ◆
この春、新たなステージへ向かわれる皆さまへのエールです。そして、入学式の前に一人、桜並木を自転車で駆け抜けた、40年前の自分にも贈りたいと思います。
森:蛇足ですが、生成AIにこの歌の解釈を聞いてみたら、もっともらしい答えが返ってきました。「桜吹雪という美しい情景の中に、惜別の情と祝福が共存しています」とのこと。いや、その通りの気持を込めたのは確かなんですが。AI、わかったようなこと言うなぁ。ホント、ビックリでした^^;
新生活を迎える皆さま、ぜひお近くの図書館や本屋さんをのぞいてみてください。図書館には、その地域のことを知る本や、新しい環境での生活や心の整え方など、いろんな本があると思います。図書館は、そして「本」は、いつでも皆さんを応援しています! 今日もありがとうございました。
中川さん:「可愛らしさとともに、逞しさも感じられる」素敵な歌ですね。人生の新しいステージに向かわれる皆さま、ぜひ羽ばたいていっていただきたいと思います!ありがとうございました!
オマケ:生成AIによる短歌の解説(笑)
生成AIに「 桜花 吹き散らす風は「幸あれ」と門出の君の 背中押すなり」について、解説してもらいました。
——-ここから——-
この歌(詩)は、春の門出(卒業や就職、新しい環境への旅立ち)を祝福する、非常に爽やかで前向きな短歌・詩歌です。以下にこのフレーズが持つ情景と意味を解説します。
・歌の解釈
「桜花 吹きちらす風は「幸あれ」と」
散りゆく桜を舞い上がらせる強い風(桜吹雪)を、擬人化して「幸あれ(幸せになってください)」という祝福の言葉を伝える言葉として捉えています。
「君の門出の」
これから新しい人生のステージへ進む「君」のこと。
「背中押すなり」
その風が、まるで君の背中を押して応援しているかのように見える。
・込められたメッセージ
別れと祝福: 桜が散ることは別れを意味しますが、同時にそれは新しい始まり(門出)でもあります。
前向きなエール: 去り行く人への「寂しさ」よりも、未来への「応援」の気持ちが強調されています。
情景の美しさ: 桜吹雪という美しい情景の中に、惜別の情と祝福が共存しています。
春のこの季節に、大切な人や新しい生活を送る人へのメッセージとして、非常に美しく感動的な詩です。
——-ここまで——-
おそるべし、生成AI(笑)。頼りすぎず、検証しつつ、上手に活用していきたいですね(笑)。
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