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「みんないっしょだよ」―映画『窓際のトットちゃん』より(FMぜんこうじ「図書ナビ」第26回)

黒柳徹子さんの自伝『窓ぎわのトットちゃん』が発行されたのは、1981年。当時、大ベストセラーになりましたね。表紙は、いわさきちひろさんの「こげ茶色の帽子の少女」…この絵の印象がとても強くて、トットちゃんといえば、この絵が思い浮かびます。
実は、2023年にアニメーション映画『窓ぎわのトットちゃん』が公開された時、何となく「イメージが違う」と思ってしまって、観ずじまいになっていました。
今回、松川村にある「安曇野ちひろ美術館」で、戦後80年の展示「絵本でつなぐ「へいわ」」に関連して、映画の上映会があると松川村の棟田図書館長さんから聞いて、「食わず嫌いをせずに、観てみよう」と思ったんですね。

映画は・・・一言でいうと、本当に素晴らしかったです。アニメーションの絵って、動きますよね。静止画で見るより、ずっと生き生きして、魂が吹き込まれて。引き込まれました。

小学校一年生のトットちゃんは、教室で落ち着いて勉強することができなくて、退学になってしまいます。そこで、「トモエ学園」に入学し、小林宗作校長先生に「君は本当はとても良い子なんだよ」と言ってもらえること。病気や障害がある子も含めて、「みんないっしょだよ。いっしょにやるんだよ」という小林校長先生の言葉を体現するような、自由な遊びの中に沢山の学びがあること。そういう原作の良さはそのまんまに、原作にはない、アニメーションならではの夢のようなシーンや、お互いの違いをものともせず友情を育んでいく姿に、何度も涙が出てきました。

中川さん:私、実は、映画が公開された時、観に行ったんです。小林校長先生の「人生はリズムなんだよ」という言葉がとても印象的でした。

森:「人生はリズム」…って素敵ですねリズムといえば、小林校長先生は「トモエ学園」を創る前に、外国ではどんな教育をしているのか視察旅行をして「リトミック」を提唱したダルクローズさんに出会ったそうです。「どうしたら音楽を耳ではなく”心で聞き、感じる”ということを教えられるだろうか。どうしたら子供の感覚を目覚めさせられるだろうか?」と考えて、リズム体操を考案したそうなんですが、この「リトミック」を日本の小学校で初めて取り入れたのが小林先生だったそうです。

松本猛さん、筆者、八鍬監督

森:そのあとのトークも良かったです。いわさきちひろさんの息子さんの松本猛さんが聞き手になって、監督の八鍬新之介さんに、映画を製作することになった経緯や、作品に込めた想いを聞き取ってくださって、「そうだったのか」と気付かされることがたくさんありました。

『窓ぎわのトットちゃん』は、実はこれまで何回も映像化の話が出たそうです。でも、著者の黒柳徹子さんが首を縦に振らなかった。「それが実現したのは、どういういきさつだったんですか?」と、松本さんが質問されました。

映画の公開は2023年ですが、企画は2016年に始まったそうです。八鍬監督さんは、もともと、ドラえもんシリーズを手掛けておられましたが、2016年、シリアで内戦が始まり、相模原で障害者殺傷事件が起こりました。その頃、安保法案が採決されるという出来事もあって。戦争と平和とか、障害とか、そういうことを考えながらいろいろな本を読んでいるとき、『窓ぎわのトットちゃん』に行き着いたそうなんですね。

トットちゃんがトモエ学園に通った頃は、日本が戦争に突入して、自由や美しいものが失われていく時代でした。現代も世界のあちこちで戦争が起きて、子どもたちが犠牲になり、社会の分断が起きています。「そんな今の時代に、黒柳さん自身が経験した子ども時代の戦争のことを、より多くの人に知ってほしいと思われたのではないか。だからアニメ化が実現し、ナレーションを引き受けられたのではないか…」と松本さんはお話されていました。

今回ご紹介した本と映画会チラシ

森:そして、アニメのキャラクターの原画を見て、黒柳さんが「可愛い!」と笑顔になられたそうなんです。これもとても、大切な要素だったみたいです。他にも、作画のことや、音楽のこと等、たくさんのエピソードが出てきました。

中川さん:森館長、今日も本を持ってきていただいていますが、原作の『窓ぎわのトットちゃん』の挿絵は、いわさきちひろさんなんですよね。そして、映画のほうのキャラクターも可愛いですよね!

森:最後に、八鍬監督さんに、私から質問をさせていただいちゃいました。「この映画を通じて、どんな人たちに、どんなことを伝えたいですか?」とお聞きしたら、「今の世界は、宗教や人種などで、そのグループを一色に塗りつぶすような風潮がある。一人一人、それぞれが違うはずなのに、知ったつもりになって、レッテルを貼ってしまう。大人にも子どもにも、いろいろな人に伝えたい。身近な人たちへの思いやりとか、遠い場所で起こっている戦争のこととか。映画を観たあと、社会のことに思いをはせてもらえたら。」というようなことを、おっしゃっていました。

中川さん:森館長、良い質問をしてくださいましたね。難しいお話も伝わりやすく、考えさせられました。

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