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蔦重は「文化のソーシャルワーカー」だった?!(FMぜんこうじ「図書ナビ」第23回)

一つは、子どもの頃にお世話になった花魁の、朝顔姐さんとの思い出です。蔦重は、子どもの頃に親に捨てられ、いじめにあったりしていたという設定です。そんな蔦重に、朝顔姐さんが、本の読み聞かせをしてくれます。

絵を見ながら、「おとっさんとおっかさんも、鬼退治にでかけたのかもしれんせんな」と朝顔が言うと、「おいらの親は色に狂って出てったんだよ」と言います。そこで、朝顔のセリフです。中川さん、読んでみていただけますか?

中川さん:「うわさでありんしょ。まことかどうかなど、わかりんせん。」「どうせわからぬのなら、思いっきり楽しい理由を考えてはいかが?」「その方が、楽しうありんせんか?」

森:ありがとうございます!中川さんの柔らかい声、ピッタリです! そこで蔦重、自分は実は公方(くぼう)様の隠し子で、おとっさんとおっかさんは隠密で…という空想をして、笑顔になるんです。幼少期の思い出が「恩人に報いたい」とか、「面白いものを世に届けたい」という動機につながるんですね。

蔦屋重三郎、時の権力者と対峙し、目を開かれる

森:もう一つのエピソードは、蔦重が大人になってから。吉原のお客が減っていく中で、朝顔姐さんが、栄養失調と病気で悲惨な最期をとげます。そこで、蔦重は、時の権力者である田沼意次(たぬまおきつぐ)に、吉原の惨状を訴え、なんとかしてくれと直訴します。
その時、田沼から「お前は何をしているんだ?」「人を呼ぶ工夫が足りないのではないか」と。権力にすがる前に、自分でやるべきことがあるのではないか?と問われて、ハッとするんですね。そこから、蔦重の知恵と工夫、今でいうビジネス感覚で、次々とヒットを飛ばすことにつながるんです。

蔦屋重三郎、実は「文化のソーシャルワーカー」だった?

森:私が良いな、と思ったシーンがもう一つあります。蔦重は、田沼の言葉に触発され、吉原の魅力を発信して人を呼び戻すため、新しい本を作ろうとするんですね。その際、朝顔姐さんが最期を過ごした、病気の女郎を多く抱えたお店に前金を入れ、まず食べられるようにしました。そして、女郎たちと一緒になって、本を糸で綴じる作業をします。当時の本って、糸綴じなんですよね。みんなで必死になって、寝落ちしたりしながらも、「本が出来たー!」って喜び合う。
これ、見方を変えれば、病気で体を売ったりできなくなった女性たちに、本づくりという別の仕事を斡旋しているってことですよね。そして、蔦重が女郎たちを一方的に助けるだけではなく、女郎たちも一緒に本を作ることで、蔦重の助けになっている。そんな、助け合う関係性が見える気がして。

これってなんだか、「文化のソーシャルワーカー」的ではないですか??もしかしたら…蔦重は、吉原の「文化のソーシャルワーカー」だった?! なぁんてオチを思いついて、嬉しくなっちゃいました。中川さん、どう思われます?

中川さん:ちょっと強引かも知れませんけれど(笑)…なんだか、つながる気がしますね! 実は最近、稲盛和夫さんの「動機善なりや、私心なかりしか」という言葉が何度も思い浮かぶんです。みんなが自分のことだけじゃなくて、誰かのことを思って。でも、一方的な押し付けじゃなくて、お互いにできることをしてハッピーになっていくという感じ、何だかつながっているような気がします。

今月の一冊は?

森:この流れで(笑)、法政大学の総長もつとめられた、田中優子さんの『蔦屋重三郎―江戸を編集した男』(文春新書)(2024年10月発行)をご紹介します。

今回、図書ナビでお話しするにあたって、参考にさせていただきました。田中先生の研究がベースの本ですが、新書だし、語り口が軽妙で、とても読みやすいです。大河ドラマはエンターテイメントというか、あくまでもドラマであって、必ずしも史実に基づかないこともあるかもしれませんが、そのエンターテイメントを思いっきり楽しみ、世界観を深めていくのに最適な本の一冊だと思います。

今年最初の一冊は?

中川さん:ちなみに森館長、今年最初に読んだ本は何でしたか?

電子書籍を読んで、紙の本が欲しくなって買ってしまった『南総里見八犬伝』

電子書籍を読んで、紙の本が欲しくなって買ってしまった『南総里見八犬伝』(偕成社)

森:子ども向けの『南総里見八犬伝』偕成社(原作:滝沢馬琴、編著:浜たかや、画:山本タカト)です!これまた、大河ドラマ「べらぼう」にちなんでいまして。電子書籍の「デジとしょ信州」で、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」を知る 狂歌師・絵師・戯作者・版元など、蔦屋重三郎に連なる人々と江戸文化という特集棚を見て、選びました。フリガナが振ってあって読みやすく、インフルエンザからの回復期、思いっきり面白いものが読みたいと思って、1、2巻と読んでいたら、なんと3巻が貸出中で。待てないし、絵も綺麗だし、手元に持っていても良いかも!と思って、買っちゃいました(笑)。

中川さん:森館長のお話、歴史のことや社会のことなど、「難しいけれど、考えなくちゃいけないこと」も多いんですが…、どこか楽しく、心のなかにスッと入って来る気がします。それでは、リスナーの皆さまへのメッセージをお願いします!

「信州横断[昭和・現代史]講座」の関連本を集めた展示コーナー

「信州横断[昭和・現代史]講座」の関連本を集めた展示コーナー

リスナーの皆さまへのメッセージ

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