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こどもの読書週間に寄せて(FMぜんこうじ「図書ナビ」第13回)

中川さん:何かを始めようとする人のエネルギーというのは、素晴らしいですね。

:本当にそう思います。ドイツは、加害国でしたので、被害を受けた国にしてみれば、とてもそんな気になれないのでは?と思いますよね。
でも、ドイツの子どもたち自身に、罪があるわけではありません。そんな子どもたちに、世界中から本を贈って「本を通じてお互いの理解を深めて、二度と戦争のない平和な世界を作っていきましょう」というイエラさんのエネルギーは、はじめは本を送ることを拒否した国の人々の心をも、動かしたのですね。

中川さん:「ドイツは加害国だった…」ということについてですが、私も長野に住むロシア人のお友達がいて、とても複雑な気持ちだということを話してくれました。

:本当に、難しいですよね。人は知らないことは警戒しますが、知っていることには愛着を覚えたりする。それは自然な心の動きだと思います。お互いを知ることが、平和への第一歩だと、私も感じています。

1951年に、イエラさんは「子どもの本による国際理解」についての会議を開き、「国際児童図書評議会(IBBY)」の設立につながったそうです。現在では、80もの国に支部があって、日本にも「日本児童図書評議会(JBBY)」ができました。今年はちょうど、JBBYの設立から50年だそうです。

この『子どもの本で平和をつくる』という伝記を、日本語に翻訳した「さくまゆみこ」さんの講演会を聴いたことがあるんですが、
JBBYでは、「希望プロジェクト」というのをやっていて、戦争など日本に避難してきた子どもたちへ、本をプレゼントしているそうです。ウクライナから来た子たちには、ウクライナ語の子どもの本を。他にも、いろいろな国から来た子どもたちに、文字がなくてもわかる子どもの本をプレゼントしているそうです。

今月の一冊は?

図書ナビ13-3

上橋菜穂子 『獣の奏者』

:4月2日が「国際子どもの本の日」に制定されているとお話しましたが、この日は、アンデルセンの誕生日なんだそうです。
アンデルセンは、『裸の王様』、『親指姫』、『人魚姫』、『みにくいアヒルの子』、『マッチ売りの少女』などの物語を書いた作家です。子どものころ、誰もが一度は読んだことがあるのではないでしょうか。

IBBYは、国際アンデルセン賞という賞を作っていて、日本からも何名か、受賞者が出ています。
作家賞として、上橋菜穂子(うえはしなほこ)さん、『魔女の宅急便』で有名な、角野栄子(かどのえいこ)さんを含む5名の方々。画家賞として、安野光雅(あんのみつまさ)さん。
どの作家さんも大好きですが、今月の一冊は、上橋菜穂子さんの『獣の奏者』(けもののそうじゃ)をご紹介します。獣は動物の獣。「そうじゃ」は、「奏でる者」と書きます。

10歳の少女・エリンは、母親との二人暮らし。でも、お母さんは、世話をしていた生き物が死んでしまい、その責任を問われて殺されてしまいます。母を失った少女・エリンも死にそうになりますが、蜂飼いのジョウンに助けられ、穏やかな暮らしのなかで生き物に心をひかれていきます。
好奇心いっぱいのエリンは、「女王蜂が普通の蜂と同じ卵から生まれるのに、特殊な栄養を食べて女王蜂になること」や、「花の蜜はサラッとして薄いのに、蜂蜜はトロっとして濃いのはなぜだろう」とか、ものすごくいろいろ考えるんですね。あるとき、棚にいっぱいの書物を見つけます。まるで宝の山がそこにあるように感じて、夢中になって読み始めます。そして、王獣(おうじゅう)のお医者さん、医術師になりたいという思うようになります。

生き物を大切に思う心とは裏腹に、国同士の政治的な争いに巻き込まれてしまうのですが、こういうダイナミックな物語展開が、上橋さんの魅力の一つです。4冊のとても長い物語で、最後にはちょっと切なさはありつつも、ハッピーエンドになります。

私がこの本で好きなのは、エリンが蜂飼いのジョウンと暮らした自然の中の描写です。どんなに過酷な状況に陥っても、お母さんとの思い出や少女の頃に過ごした穏やかな暮らしが自分を支えてくれるんですよね。そして、エリンにとってどうしても知りたいことがあるからこそ、本をむさぼるように読み始めるところです。好きなことだけをして生きていくのは至難の業ですが、それでもやっぱり「好き」という気持ちは大切だと思います。
私自身、子どものころにいろいろな本に出会って、野山を自由に駆け回った記憶・体験が、今の自分をどこかで支える芯になっている気がします。

誰もに、幸せな子ども時代を過ごしてほしい。そこに本があってほしい。大人になっても、本が助けになることもあるんじゃないかと思います。

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