2024.08.17 [ ナツとしょ山好き館長の信州便り ]
過去の体験・記憶が現在にもたらすもの(FMぜんこうじ「図書ナビ」第17回)
中川さん:司書さんも、麦わら帽子をかぶったりして。みんな楽しそうですね! 宝箱を開けようとしている女の子から、嬉しそうな感じが伝わってきます。こういうイベントって、誰が考えたんですか?
森:代々の担当者たちが、いろいろな工夫をしながらバージョンアップしてくれているんですよ。
「体験から学べる図書館」を目指して
中川さん:本当に、「ここは図書館?」と思うような、新しい取組をたくさんされていますよね。
森:そうなんです。今日は「ナツとしょ」にからめて、「体験から学べる図書館」についてお話したいと思います。今回の「ナツとしょ」もそうなんですが、「図書館だから、静かに本を読みましょう」という固定化されたイメージを脱却して、もっと、自分自身の体験したことを起点に、「知ること」、「学ぶこと」って楽しいんだな。その時、頼りになるのが図書館なんだなと、気づいてもらえるような取り組みをしています(もちろん、静かに本が読めるスペースも大切なので、そういう場所も確保されています)。
最近出版された『体験格差』(講談社現代新書)(長野県内図書館蔵書情報→書店情報/出版社情報)を読んで、いろいろ考えさせられました。著者は今井悠介さん。今井さんは、小学生の時に阪神淡路大震災を経験され、その後不登校の子供の支援や、体験活動に携わられたそうです。東日本大震災を契機に、チャンス・フォー・チルドレンという公益社団法人を立ち上げて、生活困窮家庭の子どもたちの体験や学びが支援できるよう、奨学金の仕組みを立ち上げられたりしています。子ども時代の「体験」で、自信がついたりその後の成長に結びついたり、子どもの頃の思い出が、後々自分を支えてくれる大切なものだ。という実感は、皆さんにもきっとあると思います。中川さんは、いかがですか?
中川さん:その時には気が付かなくても、大人になってから「あの時のこと」「あの夏のこと」を考えることがあるんですよね。苦い思い出も、楽しかった思い出も。
森:そうですね。後から気が付くこと、ありますよね。ところがこういった「体験」が、全くできない子供たちがいる。そのことに課題意識を持って、全国調査をされたそうなんです。『体験格差』は、ご家庭の経済状況によって生じるものなんだ、ということが分かってきました。塾に行ったり、スポーツクラブに入ったり、キャンプに行ったり、博物館や美術館に行ったり、こういう体験は、お金が掛ったり、無料であってもそこに参加するには保護者の方の関与が必要で、その時間が取れない。ということも起こっているそうです。
それで、「図書館だったら何が出来るかな」といつも思っているんです。図書館なら無料なので経済格差ということにあまり影響を受けにくいと思います。図書館は本が沢山あって、子ども向けの本もあるし、もっと背伸びがしたい子のためには、大人向けの本だって手に取ることができます。本を読むこと自体が素敵な体験です。でもそれに加えて、もっと体や頭を使った体験そのものが、図書館でだってできるんじゃないかと考えているんですね。
「体験・発見やってみ!?」
森:夏休み期間に限らず、普段から県立長野図書館1階の児童図書室では「体験・発見やってみ!?」を合言葉として、「体験の貸出」をしています。例えば、双眼鏡と事典のセットを貸し出す…。図書館の前にある広大な若里公園で、鳥や虫や植物を自分で発見して「それが何なのか知りたい!」という思いが内側から湧き上がってきたら、それを、事典で調べて見る。こんな風に、まず本を読んで勉強しましょうじゃなく、「体験」が先にあると、学ぶことがもっと楽しくなる。そんな学びのスパイラルアップ、好循環が生み出せたらいいですよね。司書たちがいろいろなグッズやプログラムをご用意して(休館日には、司書たち自らが「体験」してww)、面白さをお伝えしようと、皆さんをお待ちしています。
中川さん:内側から好奇心が湧き出してくる!そういうの、とっても素敵だと思います。
今回もたっぷり、本の情報をお願いします!
森:究極の「体験」といえば「漂流」ではないでしょうか?漂流ものの物語、いろいろありますよね。まずは、ジュール・ヴェルヌの『十五少年漂流記』。大人向けのオリジナルから、子ども向けのダイジェスト版まで、いろいろなバージョンが出ています。そして、『ロビンソン・クルーソー』(ダニエル・デフォー)! 漂流ものの面白さは、漂着した先の島で、主人公たちが工夫して食べ物をとったり、寝床を作ったりして、なんとか生き抜こうと工夫する。まさに体験から学び、その環境に適応していく姿だと思います。
もう一冊お勧めしたいのが、池澤夏樹さんの『夏の朝の成層圏』です(長野県内図書館蔵書情報→書店情報/出版社情報)。この小説、1984年9月、著者39歳のデビュー作。ちょうど40年前の作品なんですが、全く古びていないというか、色あせていません。
あらすじは、静岡で新聞記者をしていた主人公が、取材のためにマグロ漁船に乗って、海に振り落とされてしまうんですね。そこから漂流してある島にたどり着いて、なんとか椰子の実をこじ開けて、飲み物と食べ物を確保する所から、だんだん島の生活になじんで行くんです。
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