2024.05.14 [ 山好き館長の信州便り ]
よく考えぬかれたことばこそ私たちのほんとうの力なのだ(FMぜんこうじ「図書ナビ」第14回)
いわさきちひろさんという絵本作家さん、皆さまご存じだと思います。 淡い色の水彩画で描かれた子どもたちは、何ともいえない、ふんわりした温かみを感じますね。今年は、いわさきちひろさんが亡くなってから50年なんだそうです。 50年前…その頃は、ベトナム戦争が続いていました。ちひろさんが亡くなる前の年、『戦火のなかの子どもたち』という絵本を出版しています。また、同じ年に、早乙女 勝元さんの『猫は生きている』という絵本も出版されています。
- 作・岩崎ちひろ『戦火のなかの子どもたち』岩崎書店(1973)ベトナムで戦争が続く中、子どもたちはどうなっているのか・・・絵本作家のいわさきちひろさんは、東京空襲のことを思い出し、心を寄せます。
- 作・早乙女 勝元、絵・田島征三『猫は生きている』理論社(1973)主人公の昌男くんの家に、野良猫の一家が住み着いていました。空襲があった日、猫のお母さんと子猫たち、昌男くんのお母さんと妹たちは、協力し合って何とか生き延びようとしますが…。
どちらも、ベトナム戦争の最中、無差別爆撃などによって子どもたちが犠牲になる事に対して、戦争の悲惨さや悲しさを描き、平和の大切さを語らねばという強い決意で創作された作品なのだそうです。でも、この50年、残念ながら紛争は各地で起こり、今もなお、ウクライナやガザでは子どもたちが犠牲になり続けています。
もともと、絵本は「子どもたちの成長と喜びのためのもの」という考え方だったそうなのですが、現在では、平和をテーマにしたもののほか、人権・差別、自然・地球環境、多文化共生、老いと死、原発など、以前には考えられなかった社会的なテーマが取り上げられるようになって来たそうです。
中川さん:森館長、いつも紹介する本を実際に持ってきてくださるんですが、表紙の絵の女の子の表情はちょっと寂しげですね…
森:そうですね。最近では、絵本の原画の展覧会もよく見かけますが、50年前に、松本猛さんがいわさきちひろさんの遺作の展示会を開催しようとした時は、全ての美術館で断られてしまったそうです。絵本の挿絵は、昔は「芸術作品」とは認識されていなかったんですね。松川村には世界初の絵本美術館「安曇野ちひろ美術館」がありますが、その設立を思い立ったのは、このような経験をしたからなんだそうです。今では、絵本の挿絵は、芸術作品の一ジャンルと見なされています。
今月の一冊は?
森:GWの5月3日は「憲法記念日」。そして5月5日は「こどもの日」ということで、井上ひさしさんの絵本、『子どもにつたえる日本国憲法』をおススメしたいと思います。挿絵はいわさきちひろさんです。
憲法って、難しい言葉で難しいことが書いてあるイメージがありますよね。そこで、井上ひさしさんが、だれでも理解しやすい言葉で書いているんです。
著作権の関係から全ての文章を朗読するというわけにはいかないのですが、印象的な部分を抜粋して、ご紹介したいと思います。
私たちは、人間らしい生き方を尊ぶという
まことの世界を まごころから願っている
人間らしく生きるための決まりを大切にする
おだやかな世界を
まっすぐに願っている
だから私たちは
どんなもめごとが起こっても
これまでのように、軍隊や武器の力で
かたづけてしまうやり方は選ばない
殺したり殺されたりするのは
人間らしい生き方だとは考えられないからだ
(中略)
こんな風に、井上ひさしさんは、表現しているんですね。中川さん、次のフレーズを読んでいただけますか?
私たちは
人間としての勇気をふるいおこして
この国がつづくかぎりその立場を捨てることにした
どんなもめごとも
筋道をたどってよく考えて
ことばの力をつくせば
かならずしずまると信じているからである
よく考えぬかれたことばこそ 私たちのほんとうの力なのだ
(後略)
憲法第9条「もう二度と戦はしない」 井上ひさし『子どもにつたえる日本国憲法』(講談社)2006年より
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