INTERVIEW浜田 統之ブレストンコート ユカワタン

浜田 統之

軽井沢でしか食べられない「水のジビエ」。新境地のフランス料理を、世界へ発信する

料理のオリンピックと称される、世界最高峰のコンクール「ボキューズ・ドール」。この2013年フランス大会で、日本人初の3位銅賞を獲得したシェフが、信州・軽井沢にいます。ホテルブレストンコートのレストラン「ユカワタン」を率いる浜田統之シェフが、その人。世界の美食家たちが注目するなか、地元生産者とのつながりを大切に、「日本のフランス料理」を提唱する浜田シェフは、日々どのような思いで、信州の自然や食材と向き合っているのでしょうか。

すべては、信州の豊かな自然と食材から

信州に移住したのは、自然の中で働きたいと思い、星野リゾートという会社に出会ったから。そして、信州の素材のすばらしさと豊富さに感動したからです。チーズやワイン、高原野菜の美味しさはもちろん、静岡県との県境まで行けば、柑橘類もお茶もとれる。ユカワタンでは、信州の森の恵みや川魚、野菜など、すべての食材は水がもたらす恵みだと考え、コンセプトを「水のジビエ」と名付けました。ジビエ(野生の獣肉)はフランスでは最高の食材であり、フランス料理ではジビエに最高の技法を使います。ユカワタンでは、ジビエの考え方、フランス料理の技法を基本とし、ここ軽井沢でしか食べられない独自のスタイルを追求しているのです。近くには湯川という清流が流れており、周囲の森は野鳥の宝庫です。そんな自然の中を散歩しながら料理のインスピレーションを得ることもあります。

生産者といいものをシェアし、未来へつなぐ

信州に来て最初に試みたのは、地元生産者と交流を持つことでした。食材には、生産者の「人柄」が表れるもの。だから、まずは会いに行くことから始まります。軽井沢サラダふぁーむの依田さん、安曇野放牧豚を手掛ける藤原さん、菅平ダボス牧場で中ヨーク豚を手掛ける伊藤さん、上田地鶏・真田丸をつくる大沢さん、佐久鯉の斎藤さん…。ユカワタンの食材は、すべて彼ら作り手と協力し、料理に使った感想を随時フィードバックして、ともに学び合うなかでつくり上げてきました。これは、地方で暮らし、生産者に近いからこそできること。東京では、最高の食材を「ピックアップ」することはできるけど、ここでは生産者と一緒に、地元の素材をより良いものに育てると同時に、私たち料理人の技術も料理人の技術も常に進化し続けなければという思いに駆られています。そうやって、生産者との距離が近い地方だからこその優位性を情報発信するのが、自分のような立場の者の役割なんだと思います。高品質な食材を使い、東京や世界に向けて情報を発信していくことで、こだわりのある生産者が活躍できる場が増え、田舎で無農薬野菜を作りたいという若者が増えるきっかけにもなるはず。無農薬の野菜をずっと育てていくことは、次の世代や地球環境にも絶対大切だと思います。

「日本人であること」を問い直す

ボキューズ・ドールでの上位入賞によって、ようやく、日本の食材でも世界から認められる、ということに確信が持てました。日本人がフランスの食材を使って、フランス人と同じスタイルで料理をする限り、「フランス料理」を超えることはできません。でも、フランス料理の技法と和の食材で、フランス料理以上になった料理が日本にあるとすれば、世界中の人が足を運んで食べる価値があると思ったのです。日本にこだわり、そこに対しての賞をいただいたことで、「この方向で間違っていない」という自信につながりました。ボキューズ・ドールでは、プレゼンテーションも日本らしさにこだわりました。器やカトラリー、メニューなど、日本らしい技術を用いたひとつ一つのアイテムに、審査員の関心も高かったようです。ユカワタンで使うそれらの日本製品の中には、木曽漆器や松本の石のアーティスト伊藤博敏さんの作品など、信州の工芸品や作家作品も含まれています。

世界中を巻き込んでハッピーに

2014年の11月に、フランスのアート系出版社からユカワタンの本が出版されます。ユカワタンとつながりのある生産者全員の名前を掲載しており、コンテンツは日本固有の味覚である五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)に分かれています。他の国のシェフがこの本を見て、熟成味噌を混ぜ込んだコンソメスープを作りだしたら、世界中の人が日本の発酵食品を食べて健康でハッピーになるかもしれない。日本でもあまり知られていない地方のシェフが、フランスから世界に打って出るのは、おもしろい試みだと思いませんか。こういったことは、自分にしかできない仕事であり、自分の使命だと思ってやっています。これからは、「美味しいね」と食べていたら自然と健康になる、ということが大切なテーマになりそうです。ありがたいことに、ユカワタンでは月に何度も足を運んでくださるお客様もいますので、お客様の体調にも意識を向けています。砂糖や塩は無精製のものを使っていて、バターの代わりに豆腐のディップをお出しすることもあります。様々な可能性がありますが、アユの魚醤やアンチョビといった発酵食品作りにも挑戦したいです。自然の恵みは、毎年同じ時期に同じものしか出てきません。昔の人は流通もなく、情報も少ない、限られた環境だからこそ、すばらしい料理を生み出してきました。ユカワタンでは、身近な食材しか使わないため、例えば、海の魚ではなく川魚となる。だからこそ、目の前のものに真剣に向き合い、考え抜くことができると思っています。そして、死ぬまでになんとか昔の人を超えられるような深い料理を生み出したい。これはもう仕事っていう感覚じゃないですね(笑)。どういうふうに世界中を巻き込んで日本の食材に注目させようか、といつもワクワクしながら考えています。

2011年にオープンしたブレストンコートユカワタン。わずか24席という設定は、訪れる人との一期一会を大切にしたいという、浜田シェフの姿勢の表れ

深い木立に囲まれた一軒家レストランのため、どの季節に訪れても、広くもうけられたガラス越しに、自然の違った表情が楽しめる

近くには湯川が流れ、豊かな水を五感で感じられる。「水のジビエ」がユカワタンのコンセプト。信州の水に育まれた食材から、独自のフランス料理が生まれる

浜田統之(はまだのりゆき)
Profile 浜田統之(はまだのりゆき)/ホテルブレストンコート総料理長。1975年鳥取生まれ。18歳からイタリア料理の世界で腕を磨き、24歳でフランス料理に転身。2004年、ボキューズ・ドール国際料理コンクール日本大会で史上最年少優勝を果たす。2014年、同コンクールフランス大会本戦で世界3位銅賞を獲得。同年、国際料理写真フェスティバルで優勝。

信州の水と食材による「日本のフランス料理」

アミューズ

和食の突き出しにあたるアミューズブーシュにこそ、
料理人の哲学が表れると言われています。

6種のアミューズ。美しい石の上に乗る、懐石をイメージしたコース仕立てのアミューズブーシュ。石の温度は料理に合わせて変えてある。左から、菅平高原ダボス牧場の豚のパテ・ド・カンパーニュ、北軽井沢のギンヒカリのタルタルとウドのピクルス、コーンのスープ、信州サーモンとブラックオリーブのミニトマト アンティポワーズソース、信州新町の子羊のメルゲーズ(ミンチ)のコロッケ、清水牧場のクワルクと赤ワインのジュレのサクランボ

前菜

おいしいものには、必ず理由がある。
自然が、理にかなっているから美しいのと同じように。

オオヤマメのアチャラ漬け風 新ショウガのビネグレット添え。オオヤマメの皮目をカリッと炙り、マリネしてシードルビネガーに漬けたもの。近郊で採れた花や木の芽、穂ジソなどを薬味に、安曇野のワサビがピリリときいている

魚料理

プレゼンテーション(盛りつけ)では、
「もしぼくがこの素材なら、どう盛りつけてほしいか?」と考えます。

オオイワナのポワレ 野菜のグリルとペトラーブ(ビーツ)添え。緑のソースは、グリルに使っている葉タマネギの葉の部分で作ったネギオイル。シソやミョウガのみじん切りも使われている

デセール

自分に制限を与えることを意識しています。
自然という制限があるから、人は考えて、料理はより深くなる。

タンポポの根のティラミス。タンポポの根を煮出したものをジェノワ(スポンジ)やムースに含ませ、だしがらはプラリネに変身して食感を与えている。葉っぱは本物で、緑色のピューレにも使用。鉢以外はすべて食べられる

浜田統之

ブレストンコート ユカワタン

住所:長野県北佐久郡軽井沢町星野 TEL:0267-46-6200
営業:17時30分~ 休み:なし
料金:コースは15,000円・18,000円の二種(消費税・サービス料別)アラカルトあり
*要予約
ブレストンコート ユカワタンへのリンク

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