信州魅力発掘人

信州に魅せられ、活動する人たちの言葉には「信州の魅力」が凝縮されています。信州の魅力を掘り下げ、それを語る「信州魅力発掘人」。山の強さ、美しさ、厳しさ、素晴らしさを知る人たちが「山の魅力」を伝えます。

山岳総合センター×安全登山 vol.3

長野県山岳総合センターが作成に当たった「信州 山のグレーディング」。今年に入り、ルートを細分化したピッチごとの評価も公表。山に関わる人たちのコミュニティサイト「ヤマレコ」とも連携し、普及促進を図っています。

山の難しさは、体力と技術で決まる

- 「山のグレーディング」はどうやって決めていったんですか?

当時、県内の遭難事故が4年連続で増えていて、何とかしなければと検討会が開かれたんです。そこで山の難しさを知らせるグレードが必要ということになりました。何か、客観的な判断基準がないとなかなか注意喚起にはつながらない。それで縦軸は計算式で出す、横軸は定義を決めて、その二つを軸にしてバランス良く決めましょうと。

- 縦は体力度、横は技術的難易度なんですね。

縦軸は、距離と高低差で計算式があって、ルートごとに地図を調べれば数値で出ます。横軸は、いったんセンターで作った後、それぞれの地区の遭対協に確認してもらいました。

山のグレーディング

- 体力と技術、それぞれで考えると分かりやすいですね。

ただ、体力は測定できますが、経験や技術、判断力というのは測るのが難しい。今、それを整理しようと思っています。例えば地図と磁石を使って道を見つけられるか、登る前に天気予報を調べているか、低体温症になったときの対処方法を知っているか…そういう、チェックリストみたいなものを用意しようかと。

- そういう目安があると、足りない部分を学んだり、準備したりする人が増える気がします。

山へ行く前にチェックして、できないことがあったら気を付けよう、準備しようという行動につながればいいですよね。山の状況を想像するのが難しいという人もいるかもしれないので。普段は、道が分からなければスマホを見ればいいし、お腹がすいたらコンビニがあるし、雨が降ったら地下に入ればいいわけですから。

- 山登りをする人でも、地図はあまり見ないものなんですか?

見方が良く分からない人もいると思います。アンケート調査では、3~4割が地図を持っていないというデータがあります。スマホだったら8割以上が持っているんですが(苦笑)。

- 地図を持たない人が、結構いるんですね…。

天気予報にしても、昔はラジオの気象通報を聞いて自分で予測を立てていた人もいたわけです。私も20代のころは山岳会で、さんざん怒られながら書きましたよ。でも今は、テレビを見れば天気図や雲の様子、さらには「明日は洗濯日和」ということまで教えてくれる。

- 至れり尽くせりというか、親切過ぎるというか(苦笑)。

普通に生活していれば、自分で予想する必要はないんですよ。でも、山だとテレビは見られないし、スマホが通じなければ明日の天気も分からない。そこの違いが分かっている人は分かっているんだけど、分かっていない人は分かっていない。そういう人たちにどうやって伝えていくのかが今の課題だと思っています。

- まずは、ちょっとでも気にとめてもらえるようにしないといけないですね。

インフラの整備も必要ではあります。スマホが通じるエリアが増えて、Wi-Fiが使えるようになれば便利になります。そこは、そんなに甘やかしてはいけないという人もいますが(苦笑)。最近増えてきた外国人旅行者は、今後、もっと増えるでしょう。さまざまな情報も外国語対応させないといけなくなってきます。それでも、山に登る人の心構えも大事にしたい。ある程度、自分の中に知識や経験、技術を身に付けておかないと、行けない場所があるということを知ってもらう必要もあるんです。

- それがあって、初めて山を楽しむことができる。

山は素晴らしいです。天気が良ければもちろん、雨が降っていてもきれいですし。花が咲いていて、稜線に出れば雪があったり、鳥がいたり。でもそれは、体調が良くて元気に登れればの話。そういうことを楽しもうと思ったら、登山の装備や準備、体調管理が欠かせません。

- 少しでもそういう心構えを持つ人が増えればいいですね。

お金と時間を用意すれば、それが手に入るかっていうとそうではない。観光地ではそういう部分もあるかもしれませんが、山はちょっと違う。来てください、楽しんでください、でもそのためにはこういうことも必要なんですということを、伝えていきたいですね。


現在、センターでは年間約60回の講習を開催。多くの人が参加できる企画や、増加する外国人登山者への情報提供など取り組みたいことはたくさんあるといいます。「『山のグレーディング』も、時間が経てば見直す必要があるし、雪山バージョンも考えないといけない。でも、全部一人で抱えちゃいけないからね」と杉田さん。今後は、行ったことのない山へ行きたいとのこと。「県内は結構登ったけど国内の他の地域や、マッキンリーとか海外も。来年よりは今年の方が体力はあるだろうから、早く行けるといいな」と話す表情からは、山への愛情を感じました。

PROFILE
1953年、岡山県津山市生まれ。就職を機に松本市へ移住し、地元の山岳会「松本学友会ライフ&マウント(L&M)」に入会。以降、会のモットーである「美ヶ原からヒマラヤ」までを実践し、四季を通してオールラウンドな山行に励む。2010年、退職後に登山学校「岳遊舎」を立ち上げる。2012年、長野県山岳総合センター所長に就任。

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