信州魅力発掘人

信州に魅せられ、活動する人たちの言葉には「信州の魅力」が凝縮されています。信州の魅力を掘り下げ、それを語る「信州魅力発掘人」。山の強さ、美しさ、厳しさ、素晴らしさを知る人たちが「山の魅力」を伝えます。

山×気象予報士 vol.3

山岳気象予報士としての道を歩き始めた猪熊さん。2011年9月、茅野市で国内初の山岳気象専門会社「ヤマテン」を立ち上げます。

山岳気象予報は「山への恩返し」

- 会社を茅野に構えたのは?

できれば中部山岳の山々が全て見える場所がいいと思って探しました。とりあえずここに決めて、またゆっくり探そう…と思っていたのですが、なかなか忙しくて、そのままになっています(苦笑)

感動の景色。紅ヤツが見られるのもこの地ならでは

- 海外の山にも数多く登ってきた猪熊さんが思う、長野の山の魅力は何ですか?

日本の山は、ダイナミックさでは海外に負けるんですが、自然が繊細で、人の暮らしがすぐ側にあることが特徴だと思います。欧米では、人は人、自然は自然で分けられていますが、日本では人と山が、昔から密接に結びついている。その日本の中でも、長野県は全てのアルプスを抱えている唯一の県で、3000メートルの山々、そして盆地があります。田園風景と山のコントラスト、人と自然が織り成す風景がとても美しいと感じます。

八方池からの白馬三山

実りの季節を迎えた田と八ヶ岳

- 確かに、人と山は近い感じがします。

交通機関も発達しているので、エキスパートじゃなくても気軽に3000メートルの稜線に立つことができる。本当に恵まれた環境です。ビーナスラインなど車で行ける場所も多いですよね。私は、中央アルプスの「ホテル千畳敷」が大好きで、泊まるときれいな夕焼けも朝焼けも見ることができます。真冬に暖房のきいた室内から絶景を見られるなんて、他にはないですよ。

- 山そのものの特徴はどうでしょうか?

それぞれのアルプスが個性的で、植生も雰囲気も北と南で違います。いろいろな山を楽しむことができるのは幸せです。

ニッコウキスゲ咲く霧ヶ峰からの中央アルプス

モルゲンロートに染まる、燕山荘からの槍ヶ岳

- 多くの人に天気をチェックして、山を楽しんでほしいですね。

でも、実際のところ天気を気にしている人は少ないように思います。天気にあまり関心がないというか。

- え?そうなんですか?

山小屋にいても、今日は天気予報も雨だし、どうかんがえても降るだろうというような日でも、「雨が降るとは思わなかった」「寒くて低体温になりかけちゃった」と話している人がいるんですよね。また、落雷多発地帯の山頂で、落雷や局地的な豪雨の可能性がある積乱雲が周囲で発達しているのに、全く空や雲を気にする人がいなくて、のんびりとお弁当を食べながら話しているのに驚いたこともあります。最近は山小屋でもインターネットが使えるところが多いですが、あまり見ている人はいないんじゃないかな…。ちょっと残念ですけど。

- 意外と気にしない人が多いんですね。

どんな天候でも耐えられるという人はほとんどいないはずなんですけどね。毎秒30メートルの強風だと飛ばされちゃうし、吹雪の中を長時間歩けば低体温になるし、暴風雨や落雷、鉄砲水などリスクを上げれば切りがないんです。でも、それを想定しながら行動することも、登山の楽しみの一つだと思うんですけどね。

- 準備や、状況を判断して行動することも含めて、「登山」だと。

自然が相手なので、さまざまなリスクから身を守る方法を知っておく必要はあります。例えば、天気図を見て、大荒れになるかならないかだけでも判断できればいいんです。それが難しいなら、「山の天気予報」を参考にしてもらえれば。

- せめて情報をチェックしないと、危ないですよね。

山で長生きをしたいのだったら、もうちょっと気にした方がいいですね。でも、それが義務になっちゃうと面白くないので。今、毎月1回、「山の天気講座」というのを開いているんですが、それは実際に山を歩いて、現場で天気を学べるようにしています。山の中で勉強するのが一番よく分かるし、まあ…自分が登りたいというのもありますけど(笑)。

- (笑)。でも、山で勉強できるのは楽しそうです。

雲を見ることは楽しいし、天気が読めると登山はもっと面白くなります。分かるようになってくると、どんどん楽しくなっていくし、そうすると次第に分からないことを解決することにも手応えを感じるようになってくると思います。そうやって、どんどん興味を深めてもらえれば嬉しいです。

- 天気を知ることで、より登山が面白くなっていくんですね。

「山の天気予報」のコンテンツの充実をはじめ、山に登るツアーと机上講座を組み合わせたり、山小屋で出張講座を開いたり、いろいろな企画もしています。これからさらに、啓蒙活動に力を入れていきたいと思っています。


慢性骨髄炎はその後、世界屈指の名医に巡り合って手術を受けて落ち着いているとのこと。「経過観察で、5年は見なければいけないと言われました。これで6年経ったので、再発の心配も少なくなったかな」と猪熊さん。聞いている側は驚きの連続という壮絶な人生を、淡々と振り返ってくれました。「山への恩返し」という、猪熊さんの山岳気象予報。今後、登山者にとっては何より頼もしい存在になっていくでしょう。

PROFILE
1970年、新潟県生まれ。1995年に中央大学法学部卒業後、登山専門旅行会社勤務を経て、気象予報士に。2011年、国内初の山岳気象専門会社「ヤマテン」を設立。日本テレビ「世界の果てまでイッテQ」の登山隊やNHK「グレートサミッツ」など国内外のテレビ、映画の撮影のサポートも。中央大学山岳部監督、国立登山研修所専門調査委員及び講師も務める。「山岳気象予報士で恩返し」(三五館)、「山岳気象大全」(山と渓谷社)など著書多数。

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