信州魅力発掘人

信州に魅せられ、活動する人たちの言葉には「信州の魅力」が凝縮されています。信州の魅力を掘り下げ、それを語る「信州魅力発掘人」。山の強さ、美しさ、厳しさ、素晴らしさを知る人たちが「山の魅力」を伝えます。

高原リゾート×アウトドア用車椅子 vol.2

2010年夏、世界の「ユニバーサルツーリズム」について調査活動を行っていた中岡亜希さんと出会ったことがきっかけで、富士見高原リゾートの「ユニバーサルフィールド」への取り組みが始まりました。ここからは、藤田さんと中岡さんのお二人に伺います。

ちょっとした工夫や人の手をプラスすることで、誰もが自然を楽しめる

- 藤田さんはイベントで「HIPPO」を見て、すぐに「買いたい!」と思ったんですか?

藤田さん)
はい。でも最初は残念ながらダメでした。1台50~60万円なので、安いものでもないですしね。でも、いつかこういうものを導入する日が来るはずだとも思ったんです。そのときに、中岡さんには「売ることよりも、当たり前に車椅子の人でも野山を楽しめるような環境づくりに、一緒に取り組めるような関係を築きたい」と言われて。

中岡さん)
私自身、20代後半に病気で車椅子の生活になったので、できることができなくなるという辛さや、行ける場所や見られる世界が限られてしまう孤立感を感じてきました。その思いは、私だけじゃなくて周りにいる家族や友達も同じなんです。

- 都市部ではバリアフリーのところが増えましたが、郊外、ましてや山や高原となると…。

中岡さん)
でも、段差をなくしたり、てすりを付けたりという質的なバリアフリーは限界があります。自然豊かなところに、お金をかけて道を作ってしまっては、逆に楽しめないですよね。

- 確かに、そうじゃないって感じがしますね…。

中岡さん)
そうなんです。設備を整えるのではなくて、道具や、ちょっと人の手をプラスすることで「自然を楽しむ」方法があるんじゃないか。そういう思いが私たちが提唱する「ユニバーサル」とう概念のもとになっているところです。

藤田さん)
すぐに「HIPPO」を買うことはできなかったけど、まずは中岡さんに来てもらって、ここで何ができるのかを調べました。「HIPPO」と一緒に、展望台に行ったり、入笠山に登ってみたり。原村の農場で、セロリやキャベツの収穫体験もしました。上高地へ行って、斜度や左右の傾斜、路面状況など、どのくらいのものなら大丈夫かという調査もしました。いつか導入するときのことを考えて、いろいろ試してみたんです。

- あの、もともと藤田さんは「ユニバーサル」に興味があったんですか?

藤田さん)
ここに来る前は、立山や尾瀬の山小屋で働いていて、山が好きだという人に大勢会ってきました。でも、山は「いつまでも行ける場所」じゃないんですよね。私に山の楽しさを教えてくれた人も、年を取ると登れなくなる。そういう姿も見てきました。ここで働くようになってからも、そういう人にたくさん出会いました。皆さん、昔登った山を見にくるんです。

- 展望台からは、富士山や北岳、奥穂高岳も望めますよね。

藤田さん)
この展望台に可能性を感じました。具体的に何をしたらいいかまでは考えていませんでしたが…。そんなときに「HIPPO」と、中岡さんに出会った。これなら、「山を見たい」と来てくれた人が、楽しい時間を過ごすことができるかもしれないと思ったんです。タイミングも、私が入社して4、5年くらいで、ちょうど良かった。社内でも「山に詳しい人」という立ち位置だったし、行政や地域と連携した取り組みを任されることが増えてきたころでした。

- それで、比較的スムーズに進めることができたんですね。

中岡さん)
「ユニバーサルフィールド」としては、富士見高原リゾートが国内のモデルケースになっているのではないでしょうか。他の地域でも部分的に取り入れているところはありますが、ここまで包括的に全体像を見据えて動いていて、うまくいっているところはそうないと思います。

藤田さん)
もともと、ベースとなる環境が備わっていたということもあります。展望台が利用できたり、養護学校の生徒や敬老会の高齢者などを受け入れるホテルがあったり、陸上競技場やランニングコースがあったり。会社としてもちょうどいい規模で、スピード感のある対応ができた。社員も協力的で新しいものを取り入れようとする社風があって、社長の理解もある。そういうさまざまな要因があったので、うまく進んだのではないでしょうか。

中岡さん)
でも、そもそも、チェンソーを担いだ藤田さんがいなかったら、成せえなかったと思いますよ(笑)


「ユニバーサルフィールド」と聞くと、障害者という言葉を連想しがちです。「一番誤解されたくないのは、障害者のためだけではないということ。お年寄りから子どもまで、何世代にも渡ってどんな立場の人も楽しめる状況が当たり前、というふうにしたいんです」と中岡さん。その思いも一緒に広まるように、富士見高原リゾートの挑戦は続きます。

PROFILE
1975年、横浜市生まれ。10年ほど山小屋で働き、2006年、富士見高原リゾートに入社。スキー場、ホテルなどの部署を経て、それまでの知識や経験を活かしてイベント企画やロケ誘致に携わるようになる。2010年ごろから「ユニバーサルフィールド」を目指した取り組みに着手。「首都圏から見れば、富士見高原は長野県の“入口”。ここで楽しんでもらったら、次は上高地や白馬、志賀高原などもっと奥に行ってもらえるようになれば」

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