信州魅力発掘人

信州に魅せられ、活動する人たちの言葉には「信州の魅力」が凝縮されています。信州の魅力を掘り下げ、それを語る「信州魅力発掘人」。山の強さ、美しさ、厳しさ、素晴らしさを知る人たちが「山の魅力」を伝えます。

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心の片隅に「自然の中では何が起こるか分からない」という思いを

「南信州山岳ガイド協会」の理事長を務める林秀也さん。70歳を越え「俺は古い山屋だから、今の人たちと考え方は違うかもしれないけど」と言いつつも、最近の山の様子やメディアでの取り上げ方などに思うところは多々あるようです。山、そして自然に対する考え方についてお話を伺いました。

楽しみ方は千差万別

- 林さんが思う、山の魅力は何ですか?

私が一番好きなのは5月の残雪の山です。天気が良ければ半袖で、雪が締まっているのでどこでも歩くことができます。それ以外でも、シーズンによって表情が異なるので、いつ行っても楽しめますよね。紅葉の時期などは特に、彩られた山肌と、岩場、滝もあって、日本にこんなにも美しいところがあるんだと感動します。最近はあまり行っていませんが沢のぼりも楽しいです。

- 四季折々で違う楽しみ方がありますね。

季節ごともそうですし、楽しみ方は人それぞれでいいと思います。私の場合は登頂の達成感というよりも、単純に自然の中に行きたい気持ちが大きいのかもしれません。私は鳥が好きで、野鳥の会にも入っているのですが、鳥の声を聞き、草花や木々を愛で、風の音を感じながら歩くから面白い。熊よけに鈴を鳴らす人がいますよね。私も一人なら鳴らしますが、もう熊が出ないような、頂上までチリンチリン鳴らすのはうるさい(苦笑)。もう少し、自然を感じてほしいですね。

今は登山道が整備され、看板や案内板も多く設置されていますが、本当はちょっと荒れているくらいの登山道を地図と地形を見て登っていくのが楽しい。プライベートで登るときはあまり人がいっぱいいるところは行きたくないというのが本心です(笑)。

- 中央アルプスの良さはどんなところですか?

この辺りの山々は、アプローチが短くて浅いので、比較的こじんまりしています。その割には険しさも楽しさもあって変化に富んでいるところが面白さの一つだと思います。カールの跡など、地形の見どころもいろいろありますし。

初心者にとっては、ロープウエイがあるので便利です。3000m近くまで行けるので、天気が良いと、それですっかり山の魅力にはまってしまう人も多いようです。急に標高を上げるよりは、頑張って下から少しずつ登った方が体にはいいので、本当は上りではなく下りで乗ることをお勧めしたいのですが…それでも気軽に行けるのは良いですね。

- ほかに、初心者に気をつけてほしいことはありますか?

やはり、無理せず段階を踏んでほしいです。夏の3カ月間くらいは気候もいいので、ハイキングの延長のような感じで行けるところもありますが、冬山に挑戦したいなら徐々に馴らしていかないと危険なことも多い。夏の間に、練習で一度登ってみるくらいの慎重さがあってもいいくらいだと思います。


自然に対する謙虚さを常に持ってほしい

- 昨年は「信州山の日」も制定され、登山人気も更に高まってきています。

最近は「百名山ブーム」で、メディアに取り上げられることも増えましたが、ちょっと情報過多な感じがします。メディアは良い面しか見せないし、誰でも行けそうな気がしてきてしまう。若い人たちは体力があるのでいいですが、年配の方、特にこれまであまり登山をしたことがない方が何となしに来てしまうのはちょっと不安です。

ガイド協会にはさまざまな問い合わせが届きます。「○月×日に行きますが、台風は来ませんか?」というものや、12月に入って「明後日、空木岳に初めて登りますが大丈夫でしょうか?」というものもあります。すぐにインターネットで聞けるからなのだとは思いますが、ちょっと心配になりますよね。そういう質問にも返事はしますが、こちらで判断するわけにはいかないので、「こういう状態です」と写真を撮って送ることもあります。周りが何を言っても、山では最終的に判断するのは自分自身ですから。

- 最後は自己責任、ということですね。

私は山に登り始めてもう半世紀以上になりましたが、初めて行く山は、どんなに低い山でも緊張します。山は楽しいですが、「何かが起こるかもしれない」という気持ちを心のどこかには持っていてほしい。自然とはそういうものです。

昔は「エベレストを征服した」なんて言っていましたが、私は小さいころからそれが何となく嫌でした。「征服」という言葉に違和感があって、ただ登っただけなのに、と。逆に登らせてもらった、楽しませてもらったというくらいの姿勢でいいのではないかと思います。自然に対しての謙虚さは忘れないでいたいです。

- 常に心に留めておかないといけないですね。

「自然に親しむ」という気持ちで登山をしてほしいと思います。そうして歩くと、同じ山に何度行っても楽しめるんです。「去年と比べて今年は花が多く咲いている」「夏場に雨が多かったから、実の付きが悪い」など、いつも違う発見があります。頂上へ行くことだけを目的にするのではなく、その途中で自然を、大きく言えば地球自体を味わってもらいたいですね。




昨年9月 27日、御嶽山が噴火した日の朝、ツアーガイドとして山頂にいたという林さん。「いつもより硫黄の臭いがきついと感じたけど、風向きのせいかと思っていた」と振り返ります。ロープウエイで下山する際にパラパラとゴンドラに当たる「何か」が、火山灰だということを知ったのは、駅を降りてからだったそうです。「自然に対しては何が起こるか分からないという気持ちが心の隅にないと、とっさの判断が難しいかもしれないね」という言葉に、重みを感じました。

PROFILE
1944年、長野県駒ヶ根市(旧・中沢村)生まれ。いったん就職で地元を離れるが、23歳のころにUターン。駒峰山岳会に入り、空木駒峰ヒュッテの管理・運営などを行う。2008年から南信州山岳ガイド協会の理事長に。
日本山岳ガイド協会認定ガイド、信州登山案内人登録ガイド、高山植物等保護指導員、県自然保護レンジャー。

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